「SNS」と「生態系」、実は似ている本当の理由 「怒り」と「共感」がミームを「バズらせる」
その一方、ネット空間のネガティブな側面も無視することはできない。たたくとなれば大勢が短期間に、晒すとなれば地球規模で、いわゆるネットリンチが行われる。残念ながら、昨今のネット空間は人々の分断を助長しているように見える。
IT革命によって情報のありかたが大きく変わり、混沌としている現状を、さまざまな人々がそれぞれに解釈している。本書『ソーシャルメディアの生態系』が特徴的なのは、題名が示すとおり、「ソーシャルメディア」と「生態系」のアナロジーに着目している点だ。
著者の1人であるオリバー・ラケットは、高校時代にハーバード大学の夏期講座で人間生理学、海洋生物学、分子生物学を学んだほどに生物学に興味があったという。
しかし大学では文化、情報、メディアといった領域を選び、その後ソーシャルメディアの広告業界に参入した。20世紀フォックスやソニー・ピクチャーズなどのクライアントを抱え、数々のソーシャルメディア・キャンペーンを成功させている。ソーシャルメディアを熟知するビジネスパーソンと言ってよいだろう。
そんなラケットだからこそ、ソーシャルメディアの世界で起きていることと、生物学的システムを結びつけることができた。一見かけ離れた両者の類似性にラケットは着目し、生態系での知見からソーシャルメディアをとらえることができないかと考えたのだ。
本書は生物に典型的な7つの機能、①細胞による構造、②代謝、③成長と複雑性、④ホメオスタシス(恒常性)、⑤刺激への反応、⑥繁殖、⑦適応/進化、が法則としてソーシャルメディアにどのように当てはまるかを説明する。
さらに、ソーシャルメディアの中で遺伝子やウィルスのように機能する「ミーム」について解説しながら、「ソーシャルメディアとはいかなるものか」「ソーシャルメディアをどう扱えばいいのか」という問いへの答えを導くものである。本稿ではとくにこの「ミーム」を中心に、著者らの考えを紹介していく。
大迫選手という「半端なかった」ミーム
本書によれば「ミーム」とは、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』で初めて使われた言葉であり、ドーキンスの造語だ。動物学者で進化論者、かつ社会評論家でもあるドーキンスによれば、ミームとは「文化の伝達のための基本単位」であり、模倣というプロセスを通じて脳から脳へと受け渡されながら広まっていく。
本書で手始めに紹介されるミームの例は「ウォーターゲート」という単語だ。この単語で多くの人は、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ盗聴事件を思い起こすだろう。盗聴器が仕掛けられたビルの名前であるとか、そもそもそのビルの名前は運河の水門(ウォーターゲート)に由来する、などと発想する人は少ないだろう。事件を表す「ミーム」となった単語は、最近でもトランプ大統領にかけられた疑惑「ロシアゲート」のように、たくさんの亜種を生んでいる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら