デリバティブに絡む駒澤大学の巨額損失が表面化し、大学の資産運用の実態がにわかに注目を集めている。わが国の私立大学は、どれくらいの規模で資産運用を行い、どんなリターンを上げているのだろうか。「金融ビジネス」編集部は、私立大(含む短期大学)を経営する学校法人約600法人の2008年3月期決算データを入手し、有価証券の運用規模や運用利回りなど、資産運用の実態に迫った。
まず、運用資産の規模について。各学校法人のバランスシートの「流動資産」と「その他固定資産」の合計値と定義し、有価証券と預金で主に運用している金融資産の規模を推計した。その他固定資産には、法人によってさまざまな名目の引当金が積まれているが、引当金の中身は有価証券と預金で運用されていることが多い。試算の結果、運用規模が1000億円を超える法人は8法人となった。なお、運用の平均額は153億円で、中央値は68億円。大半の私立大学の運用規模はそれほど大きくないと言える。
運用規模上位には、日本大や慶応大など、学生数の多い、伝統校が並んだ。これは、過去の基本金の蓄積がそのまま運用規模として反映されたと言えそうだ。運用資産の詳細については、明らかになっていないが、本誌が昨年秋に実施した主要大学向けアンケートによると、現在保有する金融商品として最も回答法人数が多かったのは国債・地方債。次いで社債が多かった。債券中心の運用を行っている実態がうかがえる。
また、社債とほぼ同数の人気を誇ったのが仕組み債だった。株式や外債といった伝統資産のほか、ヘッジファンドやREIT、ベンチャーキャピタルといった、いわゆるオルタナティブ商品を保有する法人も散見され、「今後保有を検討」とした商品では、外債に次いで、ヘッジファンドやコモディティの人気が高かった。
一方、運用の効率性を示す運用利回りは資産運用収入÷運用規模で算出した。運用規模で500億円を超える法人のうち、利回りが高かったのは藤田学園、塚本学院、立正大学学園の順。利回りの平均値は1.46%で、中央値は0.89%。「基本財産のインフレリスクヘッジ」(関東地方の大手大学担当者)が運用の目的だが、利回りの分布をみると、1%未満の法人が過半数を占め、大半の法人はローリスクの安全資産での運用を行っていると推定される。
負債比率上位には医科系大、人件費負担重い大学も
運用面の特徴とともに、600法人の収益性やコストにも着目した。
ひとつは帰属収支差額比率。企業でいう売上高利益率にあたる最も基本的な経営指標で、ベスト、ワーストそれぞれ100法人を計算した。平均値は2.6%、中央値は3.1%。プラスの1ケタ台%の法人が最も多かった。
また、今回は総負債比率(総負債÷総資産)にも着目した。私立大学の経営は「自己資本経営」が基本で、校舎の建設や設備の充実は自己資金を蓄積して賄い、借入金などの外部資金に頼らない経営を原則としている。その意味で、外部資金である負債の比率が高いのはやや異例な状態とも言える。総負債比率上位には、医科系の大学が目立ったが、これは病院経営の資金を借入金で賄っているためだ。総負債比率の平均値は14.96%、中央値は12.03%。
損益にかかわる指標としては、人件費比率(人件費÷帰属収入)を比較してみた。大学経営上、コストの大半は教育研究費と人件費が占め、特に人件費の割合が高い。事業の性格上、単に少なければよいというものではないが、大学経営陣にとって、人件費の抑制は長年の課題である。
人件費比率の600法人平均値は56.5%。60%台の法人が最も多く、80%超の法人も15法人存在する。こうした大学は人件費が高いというより、教職員数に見合った学生数を十分確保できていないようだ。
【ランキング一覧】
■運用資産規模 上位1~50位
■運用資産規模 上位51~100位
■運用利回り 上位1~50位 単位:%
■運用利回り 上位51~100位
■帰属収支差額比率(利益率の低い大学) ワースト1~50位
■帰属収支差額比率(利益率の低い大学) ワースト51~100位
■帰属収支差額比率(利益率の高い大学) ベスト1~50位
■帰属収支差額比率(利益率の高い大学) ベスト51~100位
■総負債比率 上位1~50位
■総負債比率 上位51~100位
■人件費比率(人件費が重い大学) 上位1~50位
■人件費比率(人件費が重い大学) 上位51~100位
(金融ビジネス編集部)
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