オスマン帝国がキリスト教徒と共生できた理由

イスラム世界における共存と平等を読み解く

アヤ・ソフィア博物館。ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルに建てられたハギア・ソフィア教会は、オスマン帝国による征服後モスクに転用された。トルコ共和国成立後は、博物館として利用されている(出所:Wikipedia)
「文明の衝突」が声高に叫ばれる昨今、ムスリム(イスラム教徒)と非ムスリムとがどう関係を結んでいくのかが喫緊の課題となっている。

強大なイスラム国家であったオスマン帝国は、ムスリムと非ムスリムの共生を実現し、600年にわたってイスラム世界に君臨した。

いま話題の書『教養としての世界史の学び方』の執筆者の1人であり、オスマン帝国史の研究者である小笠原弘幸氏が、オスマン帝国の経験からイスラム世界における共存と平等の問題を読み解く。

イスラム教をどうとらえるか

ムスリムと非ムスリムが、どのように適切な関係を取り結んでゆくか。この問題を考えるにあたって、ひとつの有効な方法は、これまでの歴史に範を求めることです。

『教養としての世界史の学び方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

イスラム世界の歴史上、最も強大なイスラム国家を築いたのは、オスマン帝国(1299年ごろ成立~1922年滅亡)でした。

600年にわたって存続し、400年以上スンナ派イスラム世界の盟主として君臨したオスマン帝国は、ムスリムと非ムスリムとの共存を果たし、のみならず平等をも実現すべく力を尽くしました。ゆえにこの国の歴史は、貴重な経験をわたしたちに示してくれます。

本稿では、まず、①イスラム教やイスラム世界を語るさいに、どのようなスタンスをとるのがふさわしいのかを検討します。しかるのちに、②オスマン帝国の歴史をたどり、ムスリムと非ムスリムの関わり合いを見ていくことにしましょう。

さて、イスラム教やイスラム世界についての適切な理解を難しくしているのは、「イスラム教は、ほかの諸宗教とは隔絶した、特殊な宗教体系なのだ」という主張が広まっていることです。

こうしたイスラム特殊論は、高校の歴史教科書にも浸透しています。帝国書院の『詳説 世界史B』には、次のように書かれています――「イスラームは社会のあらゆる面についても守るべき規定を定めており、宗教の枠を超えているという点で、最近では「イスラーム」とされ、「教」をつけない場合も多い」(川北稔ほか編、2017年)、と。

しかし、イスラム教が、ほかの宗教と同列に並べられないほど特殊なのか?というと、疑問符を付けざるをえません。イスラム教の聖典クルアーン(コーラン)や、預言者ムハンマドの言行を伝えるハディース(伝承)が、法律ともいうべき社会規範を多く含んでいるのは確かです。しかしイスラム世界には、クルアーンやハディースと無関係な(あるいは矛盾するような)きまりがいくつもあります。

さらには、初期の時代はともかく、イスラム世界が発展して社会が複雑になってゆくと、近代西洋の政教分離ほど明確ではないものの、宗教と政治の一定の分化が見られました(柴田大輔・中町信孝(編著)『イスラームは特殊か――西アジアの宗教と政治の系譜』勁草書房、2018年)。

宗教と政治が部分的に重なり合うのは、イスラム世界に限らず、ほかの文化圏でもよく見られることです。イスラム教のもつ政治や社会へのかかわりの深さというのは、相対的な問題であり、あたかもこの宗教が持つ本質的な特殊性のように語ることはできないのです。

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