米国エアバッグ事故、大規模リコールの代償 優良企業の蹉跌

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ガス発生剤の製造過程に問題

ホンダによると、タカタ製エアバッグは、毒性の高いアジ化ナトリウムに代わり、硝酸アンモニウムを含むガス発生剤を採用。アジ化ナトリウムの使用は2000年代前半にはなくなり、「非アジ化」インフレーターのパイオニアとして、同社製品への需要は大きく伸びた。

硝酸アンモニウムは、ガス発生の効率が良く、残滓物も少ない。しかし、湿気にさらされると不安定化する恐れがあるという。

タカタの工場では、機械でガス発生剤を成型し、それらをインフレーターの内部に組み込む。センサーが事故発生を感知すると、瞬時にインフレーターはガスを発生させてエアバッグを膨張させる。発生剤が破損していると、燃焼が急激になり過ぎ、高圧によるインフレーターの破裂を招く。

タカタは一部のリコールについて、このガス発生剤製造過程に問題があったと認めている。過度の湿気を避けるべきガス発生剤の保管が適切でなかったため、何年も経つとガス発生剤に破損が生じた。ガス発生剤の中には加圧の足りないものもあった。

また、ホンダによると、本来インフレーター内に7個内蔵されているべきガス発生剤が、実際には6個しか内蔵されていないケースもあったという。ガス発生剤の個数が足りない場合、自動車が走行するうちに、インフレーター内でガス発生剤が動き回って破損したり、または粉状になることがある。これによって、エアバッグが作動する際に異常な燃焼が起き、内圧が想定以上に上昇、インフレーターが爆発し部品が飛び散る恐れがある。

同社や自動車メーカーによると、同社の米国とメキシコの工場で欠陥のあるガス発生剤やインフレーターが作られたのは2000年から2002年の間。この時期について、タカタの元関係者は、同社が急増する需要に対応するため、顧客から増産するよう厳しいプレッシャーにさらされていたと話す。

2000年から2005年までの5年間に、ホンダの生産台数は全世界で37%伸び、340万台に達している。急速な需要拡大と増産要請がエアバック品質悪化の要因として考えられるかどうか、というロイターの取材に対し、タカタは「需要はその時々で変化するが、当社の高品質な製品を供給するというコミットメントは常に変わらない」と回答。ホンダは「タカタはホンダの発注数に応じてエアバッグを納入すると同時に、エアバッグの品質についても保証していた」と述べている。

一方、タカタは、昨年の大規模リコールにつながった問題として工場における欠品記録の管理不徹底を指摘している。同社によると、同社のある工場の生産ラインには、加圧が不足しているガス発生剤を自動排除する機能があり、それを手作業で起動あるいは停止する装置がついていた。ある時、「人為的ミス」により自動排除機能が停止されており、それがどの時点で起きていたのかという記録も残っていなかった。どのガス発生剤が検品基準にパスしたかを判断する証拠も確保できなかった、という。

さらなるリコールは

タカタの事故にもかかわらず、NHTSAによれば、エアバッグが導入された1987年以降、米国だけでも約3万5000人の命が助かっており、この装置が自動車の安全性確保に大きな役割を果たしている事は明白だ。

しかし、今なお、タカタや自動車メーカーは「さらなるリコールがあるのか」という問題に直面している。

NHTSAのデーターベースには、ホンダのシビック2005年モデルが事故を起こしたというフロリダ州ジャクソンビルの弁護士の指摘がある。「運転席のエアバッグのインフレーターが破裂、1インチ大の破片が飛び散って運転者の右目に刺さった」という事故で、鼻も擦傷したというのがその内容だ。しかし、この車種はこれまでのリコールの対象にはなっていない。

NHTSAは苦情を認識しており「状況を注視して必要なら措置をとる」としている。一方、ホンダはこの時点では追加のリコールが必要と判断するにいたったモデルはないとし、「もし、不具合の情報を入手した場合、顧客の安全を第一に考えて、迅速に必要な解析や原因究明などを行う」(同社の広報担当者)との考えだ。タカタは、詳細な技術分析や部品交換などで顧客をサポートしていると話している。

(文中、敬称略)

(取材/執筆:Ben Klayman、久保田洋子 取材協力:Paul Lienert 日本語版編集:北松克朗、加藤京子)

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