米国エアバッグ事故、大規模リコールの代償 優良企業の蹉跌

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しかし、タカタは、その「危ない橋」を渡りきったわけではなかった。そして、高田が当初抱いた不安は、その「橋」に一歩を踏み出してから20年以上も後になって的中する。

2009年5月、当時18歳のアシュリー・パーハムが悲劇に遭遇したのは、オクラホマ州ミッドウェスト・シティの高校を卒業した数日後だった。高校ではチアリーダーを務め、将来は教師になることを夢見ていた彼女は、その日、フットボールの練習を終えた弟を迎えに行くため、車を走らせていた。そして、学校の駐車場で別の車と衝突した。

彼女が運転していた車は、ホンダアコード2001年モデル。ハンドルには、8年前に製造されたタカタ製エアバッグが装備されていた。衝突と同時に、本来なら彼女の体を守るべきエアバッグが、一瞬にして凶器に変わった。

検死結果によると、エアバッグの膨張とともに飛び出した金属片がパーハムの頸動脈を切断、彼女は出血多量で死亡した。緊急治療室でパーハムの手当てにあたった医師は、首と胸部の傷口から金属片を摘出するまで、彼女が銃撃されたのではないかと思っていたという。

詳しい調査の結果、摘出された金属片はエアバッグの破損部分と一致し、彼女の死を引き起こした原因がエアバッグにあることが特定された。ホンダは2009年8月の米道路交通安全局(NHTSA)に提出した報告書で、「(エアバッグが)異常に作動した」と説明している。

エアバッグは、センサーが衝突を感知すると同時に、インフレーターに電気信号を送り、その中にある火薬(ガス発生剤)に点火、大量のガスを発生させてバッグを瞬時に膨張させる。安全な作動の前提になるのは、ガス発生剤の正常な燃焼だ。インフレーターを構成する金属部品についても、溶接などを正確に行い、エアバッグ作動時の衝撃で容器が破損したり、破損によって金属片が飛び出すような事態は絶対に避けなければならない。

この事故の半年前、ホンダはタカタ製エアバッグの一部に不具合があることを米当局に報告、米国でアコードとシビックの2001年モデル4000台をリコールしている。エアバッグ作動時にインフレーターが想定を超す強い内圧を受けて破裂、金属片がバッグを貫いて車内に飛び散り、乗員が負傷する危険性があったためだ。

パーハムの乗っていたアコードは当初、このリコールには含まれていなかったが、ホンダは彼女の死亡事故から2カ月後、対象車を拡大し、パーハムのアコードと同じ車種も含め、世界で50万台を回収した。

にもかかわらず、その半年後、バージニア州でクリスマスイブの日に、同じような事故が起きた。別のアコード2001年モデルが郵便トラックと衝突、エアバッグ膨張時に飛び散った金属片が乗っていた33歳の女性の頸動脈を切断したとみられ、女性は出血多量で死亡している。

いずれの事故についても、ホンダとタカタは裁判に至ることなく遺族と和解しており、詳細は公表されていない。

大規模リコール

パーハムの死亡事故の後、数十万台規模のリコールが連鎖的に実施される事態となった。2件の死亡事故だけでなく、同じくエアバッグ関連とみられる重傷事故も発生。ある女性は出血を自分の指で止め、一命を取り留めた。

リコール件数は昨年4月にピークを迎え、ホンダ、日産、トヨタ、BMWなどの2001―04年モデルが世界全体で合計360万台回収された。これはエアバッグ関連のリコールでは最大の規模。タカタ製エアバッグを装備した自動車は昨年までの5年間で650万台がリコールされており、その半分以上がホンダ車だった。

パーハムの死亡事故が起きた後、ホンダは2度目のリコールを発表した。それについて米道路交通安全局(NHTSA)は2009年8月、同社に、その対象になった車種をなぜ前年のリコールに含めなかったのかを尋ねている。

その3カ月後、NHTSAはホンダおよびタカタのリコールについて調査を開始。2010年5月までに、両社とも適切にリコールを実施したとの結論に達し、調査を終了した。ロイターの取材に対し、NHTSAは両社の対応は満足できるものだったと回答している。

タカタは、すでに品質問題は解決済みだと説明。ホンダや日産自動車<7201.T>などの大口顧客メーカーは、タカタ製エアバッグの装備を継続すると表明している。

タカタも自動車メーカー側も、一連のリコールは複数の異なる理由によるもので、問題が発覚した後は迅速に対応していると説明する。各リコールの原因に何らかの関係があったかどうかについては、「ないとしか言えない」とタカタの広報担当者、松本英之は言う。

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