邦銀システムの見通しはネガティブ《ムーディーズの業界分析》
主要な論点
グローバル信用危機からの深刻な影響と、それによる広範なデフレのリスク
邦銀にとって主要な問題は、世界的なリスク回避傾向と景気後退の脅威に起因している。これらのシナリオは、9月に起こったリーマン破綻に端を発し、レバレッジ解消の動きを通じて国内外の全アセットクラスの価値が下落、その動きが海外の証券化商品にとどまらず、国内REITや、変動利付国債、国内株式にまで広がったことによる。自己資本と比較して相対的に多額の株式を保有する邦銀にとって、国内株式市場の下落の影響はとりわけ厳しいものとなっている。
信用コストは増大
他のネガティブな要因としては信用コストの増大が挙げられる。2008年第2四半期、邦銀の信用コストは急激に増加した。ここ一年間、原材料費の上昇と銀行による与信基準の厳格化に伴い、企業倒産件数は上昇傾向にある。特に影響を受けたのは中小企業、建設/不動産セクターであった。
株式ポートフォリオリスクが主要な偶発リスク
2008年10月、日経平均が短期的に7,000円割れを記録した際、大手邦銀はストレスシナリオに直面した。日経平均は昨年、3月の12,500円、6月の13,500円、9月の11,500円と、大幅に下落している。(現在は、8,000円程度で推移している)。
日経平均が7,000円に下落し、その他有価証券の未実現損失が急増大するストレスシナリオにおいて、メガバンクのTier1比率は6%を若干上回る水準にまで低下する。これに伴い、各行はTier1資本の増強を検討していると報じられている。(すでに第3四半期に多額の自己資本の増強が完了している)これによりTier1資本比率は(日経平均7,000円のシナリオ下で)6.5~7.0%のレンジに維持される見通しだが、これは銀行財務格付けCの最低所要水準であるとムーディーズは考えている。また、現状の各行の資本の強さ、追加的にTier1資本を増強する柔軟性は格付けに織り込まれている。現在、株式市場は8,000円まで調整されたが、株価下落は依然として銀行財務格付けに対する脅威である。
高水準のサポートが期待されることが、引き続き預金格付けを支える要因
邦銀システムは、システミックリスクに直面した場合には、引き続き高い確率でシステミックサポートの影響を受けられるものとムーディーズは見ており、多くの銀行の固有の信用力が低い中でも、それが各行の相対的に高い預金格付けの安定性を支える重要な要因となっている。ムーディーズが格付けを付与している30以上の銀行の中で、C+を越える格付けが付与されている銀行はない。格付けがC+の銀行(ベースライン信用リスク評価がA2)には、地方銀行や、信用・市場リスクがほとんどない専門金融機関も含まれる。そうした銀行は、収益性は低いものの、引き続き強固なTier1資本(10%以上)と潤沢な流動性を有している。その他の外部サポート要因として親銀行あるいは関連銀行の恩恵を受けている銀行もある。そうした要因が格付けを下支えしている度合いは平均で約3ノッチである。メガバンクでは約4ノッチ、一方、地方銀行の多くでは、ベースライン信用リスク評価から2ノッチ分となっている。
長期的な方向性
邦銀がどのような方向性をとるべきかについて、真剣な議論が続けられているとみられる。国内における資産内容の問題が数年前に解消して以来、邦銀は欧米の金融機関に比肩すべく戦略を強化してきた。そうした経緯から、邦銀は投資銀行業務及び海外投資に重点を置くようになったが、現在までのところ、十分な成果は得られていない。
邦銀は規模の点では海外貸出市場での地位を回復することができたものの、それ以外の海外でのクレジット投資に向けた取り組みでは持続性のある営業基盤を確立できていない。海外の様々な証券化商品の市場価格が完全に消滅し、レバレッジ型の投資銀行ビジネスモデルが消滅し、国内株式に売り圧力がかかる中、邦銀は将来の方向性を見失った状態にあるとムーディーズはみている。
メガバンクにとって、規模の面からは、さらなる統合の選択肢はなく、VARおよび定量リスク管理に基づく多角化戦略も、世界の信用市場が収縮し、システム全体でレバレッジ解消の動きがある中では機能不全である。ノンバンクファイナンス業務の積極的な展開は、規制上の変更により、当初から多額の予想外の損失を抱える結果となった。また、潤沢な流動性を有するにも関わらず、国内の成長機会は縮小しているため、国内でのさらなる成長・収益機会は望めない。もっとも、これは邦銀に限った問題ではなく、グローバルに関連性をもつ市場での銀行全般の適度なレバレッジ、収益性、事業価値について共通して問われているものでもある。
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