邦銀システムの見通しはネガティブ《ムーディーズの業界分析》
SVPリージョナル・クレジット・オフィサー 鈴木 陸生
アナリスト 梶 恭輔
現在、邦銀システムに対するムーディーズの見通しはネガティブである。邦銀のファンダメンタルズは2004年以降、着実な景気回復を背景に、財務基盤・業界環境共に改善を続けてきた。しかし、最近のグローバル信用市場の崩壊による外部環境の変化は、邦銀システムに対しても下方圧力をもたらしている。見通しをネガティブとする主な理由としては、投信販売の減少、有価証券投資戦略の失敗による収益性への継続的な圧力のみならず、不動産/建設セクターに代表される企業倒産件数の増加による信用コストの増大、株式市場の悪化等が挙げられる。
各行の見通しはネガティブの度合いを強めている
邦銀各行の格付けの見通しは全般的にネガティブとなっている。邦銀の弱みは既にある程度銀行財務格付けに織り込まれているが、最近の事業環境の変化から、市場および信用リスクからの圧力の高まりを吸収する収益性の弱さが明確になりつつある。
現在の課題
景気減速の中では、信用コストの増大をコントロールしていくことが主要な課題である。邦銀システムは(他の国々と異なり)、数年にわたる大規模なバランスシートあるいは与信の膨張を経てきたわけではないため、大幅なバランスシート調整の必要性があるとは考えにくいとムーディーズはみている。だが、企業倒産件数の増加や、長期に亘る大幅な景気減速の見通しは、邦銀にも深刻な課題をもたらしている。加えて、国内株式市場の下落により、予想外の市場の変動に対する邦銀の資本構造の弱さが改めて浮き彫りになっている。
ポジティブおよびネガティブな格付けの傾向
格付けを支える要因
増大する課題に長期にわたり対処することを可能ならしめる、強固な預金基盤と流動性
過去数年間の資本蓄積により強化された財務基盤
資本と流動性の両面において、強固な財務基盤を有する国内大企業
穏やかではあるが整いつつある、信用商品に対するリスク調整後プライシングの追求を可能にするような事業環境
格付けを圧迫する要因
国内および世界における景気後退の兆し
世界の信用市場の崩壊が、投信販売および株式市場に与えるマイナスの影響
株式保有および与信集中による、国内企業セクターの業績への邦銀の高い感応度
不動産セクターにかかる下方圧力(過去数年間の与信拡大による)