「ジョンソン新首相」ならブレグジットは大混乱 高まる総選挙、2度目の国民投票のシナリオ

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みずほ総研の吉田氏は「ジョンソン新首相なら、合意なき離脱のリスクが高まる」とみる。バックストップの撤回など離脱協定の修正をイギリスが要求しても、EUは「コンマ1つも修正を受け入れない」(吉田氏)。イギリスもあえて延期申請しないまま期限が到来し、偶発的な「合意なき離脱」が発生するという展開だ。その場合、一時的に通関手続きを省略する特例措置をイギリスとEUが発動し、当面の影響は抑制されると予想する。

丸紅経研の田川氏も「ジョンソン氏の方針は合意に向けたリアリティが欠けており、合意なき離脱の可能性が高い」という。ただ、合意なき離脱の場合、アイルランドの国境管理が問題となり、現実的プランを持たないジョンソン政権は苦しい立場に追い込まれると読む。

現実味帯びる「再延期・総選挙」シナリオ

ニッセイ基礎研の伊藤氏も合意なき離脱の可能性が高まると見るが、それ以上に現実味を帯びてきたというのが「再延期・総選挙」シナリオだ。新首相が合意なき離脱で突き進んでも、イギリス議会が内閣不信任決議でこれを阻止する。新政権は退陣し、総選挙のためEUに交渉期限の再延期を要請。EUが承認する展開だ。

「選挙を経ない新首相では自らの政策を推進するのに無理がある。自主解散にせよ、保守党の一部同調による不信任案可決にせよ、総選挙に進む公算が大きい」(伊藤氏)。そして、総選挙となれば、5月の欧州議会選挙で躍進したブレグジット党と、惨敗した保守党の間で離脱派の票が割れ、再国民投票を掲げる労働党中心の政権が誕生。来年にも2度目の国民投票が行われ、離脱撤回となる確率が高まると読む。

たとえ再国民投票を経てEU残留となった場合でも、これでイギリス内が一件落着で混乱が収まるとは到底考えにくい。むしろ「国がますます分断されるリスクが高い」(田川氏)。

これまでの混乱によって、「イギリスのEU内での政治的地位や影響力は低下せざるをえないだろう」(伊藤氏)。イギリスの将来に対する疑念がつきまとうため、EUのゲートウェー(玄関口)として外国企業からの信頼感も損なわれ続ける。日本企業をはじめ、「脱イギリス」の流れに歯止めがかからないかもしれない。

今後、イギリス下院は7月後半から9月初めにかけ夏季休暇に入る。9月後半から10月初めにかけても各党の党大会実施のために休会する。10月末の期限に向けて、議会審議は極めてタイトなスケジュールとなる。結果がどうなるにせよ、ブレグジットは期限ギリギリまでもつれることが必至の情勢だ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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