コネなし“女性和僑”が海外で成功する理由 語学力、資金、人脈、ほぼゼロからのスタート
ハーバルボールのような伝承療法が残っていたのは、タイでも田舎町だけだった。言葉を流暢に話せない加瀬さんを、訪ねる町のタイ人たちは、みな歓迎してくれたという。
「このハーブ持っていけとか、ごはん食べていけとか、泊まって行けとか(笑)。少しおせっかいだけど、温かい、タイという国に暮らす人たちをだんだん好きになっていきました。当時30歳半ばだった私は、今、決意しなければもう次はなない、そんな気持ちに揺さぶられ、1年だけ行こうと決意して、貯金300万円だけ持ってタイへ向かいました」
ハーバルボールを使ったマッサージ店を開業
当初、加瀬さんは、タイでビジネスをしようと考えてはいなかった。事業を始めたきっかけは、客として通っていた上質なハーバルボールを使うマッサージ店が急に閉店したこと。その店のオーナーから『ハーバルボールがそんなに好きなら、あなたが自分でマッサージ店をやったら。それで、うちのスタッフも雇ってくれないか』。そうお願いされたことだったという。
「家賃の安い古い一軒家を店舗兼住まいとして借りて、2002年、まずは会社組織にはせずに開店。最初はセラピストさんも4人だけ。おカネが足りなくて、日本に帰って借金したこともあるし、もう辞めて帰ろうかと思ったことも何度もあります。『ハーバルボールはすばらしいもの』だという確固たる自信だけはあったのですが、とにかくおカネがない……という日々でした」
店舗工事が9割ほど終わったところで泣きつかれ、残金を全額を支払ったら、翌日から工事業者が来なくなったり、お店の売り上げをごまかしたスタッフを解雇したら、不法解雇で訴えられたり。異国の地ならではの苦労もたびたび経験した。が、当のご本人はあっけらかんとしている。「大変だったといえば、大変だったかな。でもすごくいい経験をさせていただいた」。加瀬さんは、そう穏やかに笑う。
実は、タイは階級社会で、マッサージ店で働くセラピストの女性たちは裕福な生まれではない。その女性たちを束ねるための努力は大変なものだっただろう。
「セラピストの方々の最終学歴は、小学校中退か小学校卒業程度。でも、学歴がないからできないとか、タイ人だからできないとか、そんなことはないのです。タイ人はとても優秀。もし、できないということがあれば、こちらの教え方がよくないのだと思うようにしています」
海外起業を成功させるための3つの柱
「どんな事業であっても、いちばん大切なのは人」。そう言い切る加瀬さんが、タイ人のスタッフと働くうえで、大切にしていることが3つあるという。
① できるだけ具体的に伝えるように心掛ける
たとえば、「きれいにしておくように」と頼む場合。異なる住環境で育ったタイやカンボジアの人に、「きれい」という抽象的な言葉を使っても伝わりづらい。
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