日本で世界を代表する製薬会社が育ちにくい訳 メディシノバの岩城裕一社長兼CEOに聞く
――新薬の開発も進展しているようですね。
期待の新薬候補「MN-166(イブジラスト)」がいよいよ臨床最終段階(フェーズ3)に入ってきました。さきほども少し触れましたが、領域は「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」「DCM(変性性頸椎脊椎症)」「進行型多発性硬化症」の3つです。このうち、最も早期に上市(販売開始)できそうなのがALSです。
順を追って説明したいと思います。ALSとは、脳や脊髄の神経細胞にダメージを及ぼす進行性の神経変異疾患。ダメージを受けることで特定の筋肉への指令が届かなくなり、筋肉が萎縮して弱っていきます。徐々に体を動かすことが不自由になり、症状末期には全身麻痺に至り、人工呼吸器などの補助が必要になります。
英国の物理学者スティーブン・ホーキング博士がこの病気だったことで、認知度が急上昇しました。
現在、アメリカでの患者数は約2万5000人で、毎年6000人程度が新規にALSと診断されています。当社では今年4月に、ALSを適応とするフェーズ2b/3臨床試験プロトコル(手順)で、FDAの審査を完了しました。今後はアメリカ内の約150人の患者を対象に二重盲検試験(偽薬とMN-166との効き目の差を見る試験)、安全性の評価を行っていく予定です。
期間は9カ月。そう遠くない時期に患者の登録をスタートさせ、順次試験に入っていきます。ALSでは資金が少なくて済むため、自前で開発していきます。臨床試験が成功した暁には、新医薬品としての承認取得のための申請を行う予定です。
手術だけでは治療できない神経細胞の復活に有望視
2つ目のDCM(変性性頸椎脊椎症)とは、頸椎脊髄圧迫によって引き起こされる麻痺と定義されている病気で、麻痺のほか疼きや痛み、しびれなどの症状につながります。さらにバランスおよび歩行困難、腕や肩、手の筋力低下や筋肉硬直、直腸機能障害などさまざまな症状を引き起こすのです。アメリカ神経学会によると、脊髄または神経根の圧迫を緩和するために、毎年20万件以上の手術が行われています。
神経の穴を広げ、圧迫を軽減させる手術が有効なのです、疾患が長期に及ぶと、圧迫が引き金となり神経に変性が起きているのです。つまり、治療は手術だけではだめで、変性した神経細胞を復活させることが重要になります。残念なことですが、現在、承認・認可されている治療薬はありません。このDCMに、MN-166が有効なのではと期待されています。
当社ではNIHRから数億円の助成を受け、2018年9月からケンブリッジ大学病院およびケンブリッジ大学病院財団とフェーズ2/3共同臨床試験を開始しました。ロンドンでこの薬のフェーズ3臨床試験に関するキックオフミーティングとシンポジウムが開催されたのは前出のとおりです。
また、世界で初めて患者支援のチャリティー団体も設立されました。臨床試験は投薬治療が8カ月間継続され、術後3カ月、6カ月、12カ月に臨床症状の評価を行います。頸椎神経機能の部分的または完全な回復が期待されます。
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