日本で世界を代表する製薬会社が育ちにくい訳

メディシノバの岩城裕一社長兼CEOに聞く

しかし、遺伝子組み換え技術を用いた医薬品が安全性などで問題のないことは、専門家なら常識的に知っていることではないでしょうか。一方、アメリカではG・W・ブッシュ大統領時代、再生医療をキリスト教の見地などから反対していました。しかし、その間に英国では初の哺乳類クローンの羊ドリーを誕生させているように、競争は熾烈です。

欧米では「治療医学」の考え方が徹底している

また、日本の医療が主に、何の病気かを調べる「診断医学」なのに対して、欧米では「治療医学」が徹底しています。治療医学とは、患者さんが治らないと意味がないという考えで、医者も薬の開発に一生懸命になります。一方、日本では患者さんは、新薬開発の過程で臨床試験に参加する場合、「モルモットにされるのではないか?」とのマイナスのイメージを持つようですね。理解はできますが、欧米ではまったく違います。「新しいことをやっているのだから、今よりもいい薬に違いない」と、積極的に参加するのです。

今年、私はDCM(変性性頸椎脊椎症)のフェーズ3臨床試験に向けたシンポジウムで英国を訪れたのですが、その際、ミエロパチー患者支援団体の設立パーティーに参加しました。場所は英国議会の貴族院です。そこには車いすの患者さんも数多く参加していました。そして、熱い視線を送ってくれたのです。本当に身が引き締まる思いでした。

また、薬の認可を担う当局も、欧米では患者さんを救うという意識が高い。もちろん決して日本が低いという意味ではありませんが、FDA(アメリカ食品医薬品局)などは薬の開発段階から親身に相談に乗ってくれますし、臨床試験などでの有効なアドバイスももらえるのです。一緒に薬を開発しているという気持ちさえ感じます。

前述のDCMについても、英国の国立疾病研究センター(NIHR)などが積極的に対応してくれました。ひるがえって、日本の医薬品の有効性や安全性について、臨床試験前から承認までを一貫体制で担っているのはPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)です。われわれも一度PMDAと協議したことがありますが、いろいろな意味で、FDAとの温度差を感じました。まあ、私たちが、アメリカ企業だからなのかもしれませんが。

――ここへ来てメディシノバの注目度が上がっていますが、どんな要因があるのでしょうか?

同社のCMO(最高医学責任者)である松田和子氏は昨年、世界で最も権威のある総合医学雑誌のひとつ『THE NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE』に共著論文が掲載されるという快挙を達成。 臨床開発の当事者であり知財担当もこなす文字どおりのスーパーウーマンだ(写真:筆者提供)

最近の開発では、小社の松田和子CMO(最高医学責任者)の功績が大きいといえます。彼女はもともと小児科の医師をしていたのですが、私の大学の後輩ということもあり、12年ほど前にお願いして、メディシノバに来てもらいました。

今年の1月に、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬として認可されているリルゾール(サノフィ社)と当社のMS-166の2つの薬を用いる併用療法で、ALS だけではなく、多くの変性神経疾患を対象に用法特許が新たに承認されましたが、これは彼女のアメリカ特許庁との交渉の賜物といっても過言ではありません。

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