「服すらアマゾンで買う人」が激増する根本理由 アマゾン「アパレル販売」はどこまで伸びるか

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理由2:ナマの情報を活かしたプライベートブランド

冒頭でも簡単に触れたが、アマゾンのアパレル売り上げが拡大する2つめの理由が「プライベートブランド(以下、PB)」だ。

日本には未参入だが、アメリカでは、すでに衣料品分野で60以上のPBを立ち上げている。この中でアマゾンの名前がブランド名に入っているものは「アマゾン・エッセンシャルズ」だけだ。そのほかは、ぱっと見ではアマゾンのPBであることはわからない。

商品の詳細をクリックすると「An Amazon Brand」と書いてあることから、PBと判別することができるが、PBであることを知らずに買っている消費者も多い。

アマゾンは各PBにおいて、ブランドのポジショニングやターゲットに応じたブランディングを行っている。モデルや画像デザインをPBごとに変え、ユーザーはあたかも普通のアパレルブランドのような印象を受ける。

売り上げは、2017年で数十億円と推測されているが、2016年に立ち上げたばかりなので成長率はかなりのものだ。

なかでも「Lark&Ro」というレディースのキャリア向け中価格帯ブランドが好調で、現在売り上げの約3分の1を占めている。ユーザーレビューによると、コストパフォーマンスや着回しのよさが評価されている。

筆者は、実際にアマゾンのPB商品を購入してみたが、正直、現時点の商品のレベルは決して高いとはいえない。

コストパフォーマンス・質・デザイン性などにおいて、ベンチマークとなるグローバルSPAのブランドと比較しても、まだ勝てるレベルにはないと思う。

しかしながら、「なんだこんなものか」とタカをくくっていると、数年後には状況がまったく変わってしまうと筆者は考えている。

アマゾンは今後、現在蓄積しているビッグデータをPBの開発に活かしてくるであろう。

前述したように、全米のファッションに関わる情報はアマゾンに集約されつつある。このビッグデータを企画・開発に落とし込めればユーザーの好みにぴったりの商品を創ることはたやすい。

さらには、PBでマス・カスタマイゼーション(参考:「ゾゾスーツ=失敗」と考える人によくある盲点)を行う可能性も高い。多民族国家のアメリカは、体型や色をはじめとして人のばらつきが大きく、衣服に対して岩盤のカスタマイズニーズがある。このニーズを取り込むことができれば、大きなビジネスになることは間違いない。

実際、アマゾンはこれまでの服づくりとは異なる、自動化が進んだマス・カスタマイゼーション用のオンデマンドアパレル製造システムを構想し、2017年にはいくつかの技術特許も取得している。

「情報の蓄積から開発・生産までをデジタルにつなぐ」というアマゾンの構想が実現したとき、そこで生まれるPBは消費者にとって間違いなく価値のある製品になる。

アパレル企業はアマゾンとどう付き合うべきか

今後、アマゾンはPBの企画・生産・販売で培ったノウハウを今後、「AWS」のような形で企業にサービス提供していくかもしれない。

とくに、マス・カスタマイゼーションが実現した際には、その生産システムやアプリケーションをアパレル企業に対し、クラウドサービスとして展開していくのではないだろうか。

したがって、アマゾンのPB展開は多くのアパレル企業にとって脅威になるだけでなく、機会にもなりうる。

「AWS」をはじめとするアマゾンのBtoBサービスをいかにうまく活用するか、アマゾンとの協業と棲み分けをどう実現するかが、今後アパレル企業にとって経営課題となるだろう。

【2019年7月31日15時追記】
書籍『2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日』の第2刷の一部におきまして、弊社の編集過程で誤りがありました。著者ならびに読者の皆さまに心からお詫びの上、以下のように訂正させていただきます。
224ページ前から5行目
誤:「約5000億円」
正:「約500億円」
なお、当該書籍をご購入された方は、下記まで着払でお送り下さい。訂正済みの書籍と交換させていただきます。
〒103-8345 東京都中央区日本橋本石町1-2-1 株式会社東洋経済新報社 営業推進部

(東洋経済新報社 出版局)

福田 稔 KEARNEYシニアパートナー

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ふくだ みのる / Minoru Fukuda

慶應義塾大学卒業、IESEビジネススクール経営学修士(MBA)修了。電通国際情報サービス、欧州系戦略コンサルを経て、A.T. カーニー入社。主に、アパレル・繊維、ラグジュアリー、化粧品、小売、飲料、ネットサービスなどのライフスタイル領域を中心に、戦略策定・ブランドマネジメント・グリーントランスフォーメーション・DX等のコンサルティングに従事。プライベートエクイティやスタートアップへの支援経験も豊富。経済産業省の産業構造審議会 繊維産業小委員会委員、繊維製品における資源循環システム検討会委員、ファッション未来研究会副座長。著書に『2030年アパレルの未来』『2040年アパレルの未来』(共に東洋経済新報社)がある。

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