反社会勢力への「闇営業」は法律的に何が問題か 5つのポイントに沿って弁護士が徹底解説

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(5)社会的勢力との取引の防止法等

芸能人の方々は反社会的勢力に利用されやすい傾向があります。反社会的勢力やその首謀者等が、自らの勢力を誇示するためであったり、信用を作り出したり、その組織内の結束を高めたりするため等に、芸能人を利用する例は後を立ちません(広告塔としての利用等)。

新規の取引を行う際には、相手が反社会的勢力であるか否かを確認するのは必須でしょう(いわゆる反社チェック)。その手法としては、

① 名刺、免許証、法人登記簿謄本の提示・取得等による情報収集
② 企業名・団体名・役員氏名・住所等についての過去の新聞調査・インターネット検索
③ 周囲からの評判等の情報収集
④ 関係機関(警察、暴力追放運動推進センター、特殊暴力防止対策協議会、弁護士会、弁護士等)への相談等

があります。過去(とくに継続中)の取引についても、同様の反社チェックをすべきです。その結果として、取引の相手方が反社会的勢力と判明した場合には、そもそも契約を締結してはならず、すでに契約したものについては契約解除を進めたほうがよいと考えるのが妥当です。

契約解除の法的構成にはさまざまありますが、明確に解除が認められるために、契約書を作成する際には、反社会的勢力である場合には解除できる旨や反社会的勢力との付き合いをしないこと等に関する表明保証等を定めた条項(いわゆる暴排条項・反社条項)は欠かせません。なお、事業者に関する、反社チェックおよび暴排条項については、暴排条例18条で努力義務とされています。

***

所属事務所は所属する芸能人との間で、書面による契約書を交わすのが望ましいでしょう。その際に、いわゆる闇営業の禁止や、ギャラの配分割合(芸能人が自ら仕事を獲得した際の優遇措置の有無等も含む)、反社条項等も定めるとよいと考えます(いわゆる奴隷契約が許されないことは言うまでもありません)。

所属事務所とテレビ局やスポンサーも契約書の締結に関しても同様です(代理店を介する契約でも構いません)。少なくとも継続的取引がある場合には基本契約を締結して、所属する芸能人による反社会的勢力との付き合いが発覚したり、刑事事件等を起こしたりした場合に、どのような措置を取るかについての基本方針を定めることもよいと考えます(現在進行中の案件、撮影が終わったが未公開・公開中の案件、公開まで完了している案件等、場合を分けて定めることも考えられます)。

反社会的勢力と付き合わないようにするには

上述した反社チェックや契約書締結等のほかに、事務所内で法令や過去の違反例等をもとにルールを策定することがまず重要です。

しかし、ルールを定めたとしても、実際に守られなければ意味がありません。ルール策定にあたっては、現場での実情を踏まえて、闇営業を行ってしまう原因(お金の問題、過去からの交友関係の問題、先輩等への配慮、マネージャー・管理者の人手不足、ルールに関する理解不足等)を探り、当人たちの意識に任せるのではなくそもそも闇営業を行いにくい環境にするにはどのようにすれば良いかということを検討しなければなりません。

芸能人が実際に誘惑にかられたりした場合等に、気軽に相談できる外部窓口(事務所に対して相談者が認める以上の情報が伝わらないような守秘義務を課す。)を設置するという手段も有効です。研修を行うにしても紙を配るだけであったり、大人数向けの講義だけではなく、具体的事例をもとにした少人数での議論やロールプレイの実践等も考えるべきです。

問題が起きた際の対応

万が一、問題が起こった場合には、しっかりと対応せねばなりません。スピードも大事なのですが、その際には、まずはしっかりと事実認定をすることが大事です。本件に限らず、昨今のニュースを見ていると事実認定が甘いと感じます。人は悪いことをしてしまうと、それを少しでも隠したいという心情を抱くことがあります。「正直に話せ!」と言っているだけでは仕方ありません。客観的な事実(メールやライン履歴、行動履歴、口座履歴等)を踏まえて、さまざまな視点および角度から質問等をしたり、複数人から話を聞いたりすることで、実際に何があったのかなかったのか(調査が完了しない段階での発表の際には認定した事実と推定に過ぎない事実とを分けて発表する。)を確認するのが大事なポイントです。

そして、事実認定を踏まえて、謝罪すべき点は謝罪し、処分が必要であれば感情的ではなく、冷静な処分が欠かせません。謝罪する際には、誰に対して、どのような目的で、何について謝罪するのか、といったことも明確にしなくてはなりません。

反社会的勢力との取引や交際については、彼らによる被害の重大性等から社会的非難が高まっています。反社会的勢力とは付き合わず、仮に取引関係等を結んでしまった場合には関係機関に相談し、契約解除等の関係遮断を行うのが望ましいです。

池田 大介 弁護士

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いけだ だいすけ / Daisuke Ikeda

東雲総合法律事務所所属。東京弁護士会・民事介入暴力対策特別委員会正委員。文部科学省原子力損害賠償紛争解決センター元調査官。取り扱い分野は刑事および民事、個人から法人までと幅広い。顧問先はマンガ出版社、アニメ制作、音響制作、メーカー、IT、不動産、介護事業等。著作物に関する商品化や電子書籍等、ビジネスに関する法的アドバイスを多く手掛ける。

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