空き家840万超でも中古流通が進まぬ深刻事情 住宅大手10社が力を入れるスムストックとは

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2つ目は、宅地建物取引業法(宅建業法)の改正により、2018年4月から既存住宅の売買にあたって義務化された「インスペクション」がある(スムストックの場合は長期点検・補修制度でカバー)。

インスペクションとは、建築士が住宅の劣化状況や欠陥の有無などの診断をすることだ。不動産業者は不動産流通のプロではあるが、住宅の劣化状況を判断するのは難しい。それを補うものとして制度化された。

このほか、主要構造部分に欠陥があった場合に備える、既存住宅瑕疵保険制度(売主が宅建業者の場合と売主が宅建業者以外の場合がある)も設けられている。

上記のように、消費者が安心して既存住宅を購入できるようにする仕組みづくりが整備されつつあるが、スムストック同様、消費者による制度の認知度はまだ圧倒的に低い。この課題をクリアしない限り、既存住宅流通の拡大は難しい。

マンションと比べてみると

ところで、分譲マンションは比較的早くから管理組合が設けられ、それにより設計図面の保管や定期的な建物の点検や補修が行われ、その履歴情報が確保されるため、流通は比較的スムーズに行われている。

このため、首都圏における新築と既存の発売戸数は、すでに平成28年(2016年)以降、後者が前者を3年連続で上回っているというデータもある。つまり、既存マンションの住戸については流通はある程度確立されている。

一方で、戸建て住宅の場合は、管理や補修がこれまで家主である個人の裁量、責任で行われてきたため、それらの実施や履歴、そしてそもそも設計図面さえ残っていないケースも多い。それが、戸建ての既存住宅流通の拡大を難しくしている元凶だ。

現在、供給されている新築住宅に関しても、地域工務店レベルでは企業規模や資金の問題などから、長期の点検や補修、住宅履歴の管理などの体制が十分ではないケースが多い。つまり、建物の質はともかく、体制面で流通に適していない住宅が増えている実情もある。

既存住宅の取引が盛んな欧米では、人々が住宅を「資産」として認識しており、その歴史は長い。かたや、わが国で現在供給されている住宅については、資産性を重要視していないものまだ多い。新築住宅のあり方にも課題があることを考えると、既存住宅流通の拡大にはまだ時間がかかりそうだと、筆者は思わざるをえない。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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