「精神科医の禅僧」が教える続く疲れを減らす策 ランダムなものを見て心を落ち着かせる

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睡眠不足を行き帰りの電車の居眠りで解消しようとする人もいますが、これはちょっと危険です。朝はいちばん長い睡眠から明けた状態です。その前の睡眠が長ければ長いほど、覚醒するのに時間がかかります。

覚醒に向かっているときに、また眠ってしまうというのは、その日の夜、本来の睡眠の質を落とすことになります。それだけでなく、朝の通勤時に寝てしまうと、会社に行ってからエンジンがかかるまで時間がかかってしまうのです。

そして、行きの電車だけでなく、帰りの電車でも寝ないほうがいいでしょう。午後3時以降のうたた寝は、夜の睡眠の質を悪くする、といわれています。帰りの電車では朝よりも疲れがたまっているため、深く寝てしまいやすく、夜の睡眠の質が悪くなってしまいます。

心身は自然に大きく影響を受ける

心身は自然に大きく影響を受けています。鳥の鳴き声、川のせせらぎ、雨音など、自然界は不規則な形や動き、音であふれています。ランダムなばらつきを有するものは、人間の心を落ち着かせるのです。

例えば、木の枝はランダムに生えていますね。1本1本の枝の長さは微妙にちがいます。自然なそよ風、波音、木漏れ日、心臓の拍動の間隔。ランダムで規則性のない音を「f分の1の揺らぎ」とも言います。物理学者の武者利光さんの研究によると、自然界の揺らぎの音を聴くと、脳内がα波の状態になって、癒やしの効果をもたらすようです。

自然の中は、無音ということはありません。つねに音がある。草が揺れていたり、鳥が鳴いていたり。自然のおだやかな音、動きを見たり聞いたりしているうちに、「本来の状態」になります。「本来の自己」、禅の世界では「自己の本分」と言います。自然の中で心を落ち着けてみると、いろいろな情報や人の意見などに振り回されてバランスを崩していたところから、平常心に戻ることができます。

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私たちは普段、パソコン、スマホ、テレビ、机、鉛筆、機械などの人工物に囲まれています。人工物は無意識のうちに人間の心を疲れさせます。たとえばテーブル。直角の部分や丸みを帯びたラインは計算してつくられています。

人は規則正しく並んでいるものを見ると、心が整理できていいと思われがちですが、実はあまりにも規則的に配置されすぎたものの中で過ごしていると、かえって心が乱れてしまい、疲弊しやすくなると言われています。

心が塞ぎ込みがちな人は、毎日の中に積極的に自然とのふれあいを取り入れてみましょう。空を流れる雲の動きを見る、月の輝きを見てみる、梅や桜など、きれいに咲き誇っている花を眺めてみる。なんてことのないことかもしれませんが、そういうちょっとした「ランダム」なものを生活に取り入れることで、心が癒やされ、満たされていくのです。

川野 泰周 臨済宗建長寺派林香寺住職/精神科・心療内科医

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かわの たいしゅう / Taishu Kawano

精神科医・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・日本医師会認定産業医。一般社団法人日本モメンタム協会理事。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。
現在、寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
 

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