それでも「日経平均は7月以降急落」と見る理由 「虫の良すぎる市場」はいずれ修正を迫られる

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しかし、こうした楽観論の支柱となっているのは、特にアメリカの市場においては、米中通商交渉の進展期待と、連銀の利下げ期待であり、ともに先週の株価上昇を正当化するには、危ういと考える。つまり、今後市場の楽観論が折れて、世界的な経済実態の悪化に沿った株価下落が大きく生じる、という展望は変わらない。

その楽観論のうち、まず米中通商交渉についてだが、先週は18日(火)にドナルド・トランプ大統領がツイートで、G20首脳会合(28~29日、大阪)の際に、習近平国家主席と会う(米中首脳会談を行なう)だろう、と示唆したことが、株価上昇のきっかけとなった(一時は外貨高・円安にも振れた)。

市場の動きは虫が良すぎる

もし、元々投資家が「米中首脳会談がないに決まっている」、と失望して株価がその前に下落していたら話は別だ。その後「懸念したほどではない」、と見直されたりして株価が戻るのは理解できるからだ。ところが、実際には、最初から米中首脳会談が行なわれる可能性が一定程度はある、という見方が共有されていたわけで、それがやはり行なわれる、というツイートで株価が上がった、というのはおかしなことだ。

加えて、市場が「米中首脳会談が行なわれれば、通商交渉が進展する」と決めつけているのであれば、それも危険だ。米中間の協議難航の「本尊」は、「構造問題」(中国によるものだとアメリカが指摘している、知的財産権の侵害、巨額の補助金、先端技術移転の強要)の溝の深さにあり、その溝が一気に埋まるとは見込みがたい。さらにアメリカは、首脳会談においては、人権問題や南沙諸島の件も俎上に乗せるとしており、こうした対立が深まりそうな議題を話しながら、「通商交渉でにこやかに握手する」というのは期待できないだろう。

現在アメリカでは、(おそらく形作りとして)3000億ドル程度の対中輸入の関税引き上げについて、企業へのヒアリング(公聴会)が行なわれているが、それを済ませ、加えて米中首脳会談での物別れを確認して、7月の早いうちから追加関税が実施されると予想する。

もう一つの楽観論の支えとなっている連銀の利下げだが、19日(水)に公表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の声明や議長の記者会見などで、先行きの金融政策についてハト派的な姿勢が打ち出されたことが、金利低下による株高期待を広げた形だ。

しかしこれも、いきなり利下げ期待が浮上したわけではない。以前から、政策金利の低下を見込んで、長期金利は低下基調をたどっていた。金利低下見込みがすでに十分広がっており、その見込み通りの連銀のハト派姿勢だった、という展開によって、株価が一段と上昇するというのも、不可思議なことだ。また、連銀がなぜ利下げ姿勢を強めているかと言えば、アメリカの景気が悪化に向かっている(あるいは向かっていくと予想される)からだ。景気悪化、業績悪化という悪材料を無視して、金利低下だけを好感しよう、という虫のよい市場の動きは、やはり危ういと言わざるを得ない。

さて最後に目先の日本株の動きも予想しよう。G20首脳会合は今週末の開催であり、それまで米中通商交渉の行方に決定打は出まい。このため、先週の根拠の薄い楽観が、まだ今週は生き延びて、日本の株価も大きくは崩れないものと見込まれる。よって日経平均株価の今週のレンジとしては、2万500円~2万1400円を予想する。世界の経済実態の悪化に沿った本格的な日本の株価下落が始まるには、まだもう少しだけ時間が必要なのだろう。

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