FRBの「利下げ」前提にドル、円、ユーロを展望 ゲームの焦点は「利上げ」から「利下げ」に転換
為替市場が久々に動意づいている。5月31日、アメリカのトランプ大統領が「移民流入に伴う安全保障上の脅威」を理由に、6月10日以降メキシコからの全輸入品に5%の関税を課す意向を示した。これをきっかけにアメリカ金利が急低下。連れてドルも全面安となり、その後もドル安基調が続いている。
トランプ大統領は移民流入が止まるまで関税の引き上げを段階的に続けると述べている。今回の措置についてはトランプ政権の保護主義の象徴とも言えるライトハイザー通商代表部(USTR)代表が反対したうえ、ムニューシン財務長官も金融市場の動揺を懸念し静止を試みたと報じられている。ライトハイザー代表はUSMCA(NAFTAに代わる米国・メキシコ・カナダの協定)の実施法案成立を目指し、議会での支持獲得に勤しむ立場から警告したようだ。
あくまで「移民問題であって貿易問題ではない」(マルバニー大統領首席補佐官代行)とのことだが、そもそも「関税引き上げ」と「移民流入」の間に何の関係があるのか理解しがたく、対中国同様に交渉の着地が見えづらい。移民を理由にするくらいならば、世界で2番目に大きいメキシコの対米貿易黒字を批判した方がわかりやすかったであろう。
水準がほぼ同じの2017年9月との違い
また、時を同じくしてFRB(連邦準備制度理事会)高官から踏み込んだ発言が出たこともアメリカ金利とドルの相互連関的な下落を促している。6月3日にはセントルイス連銀のブラード総裁が近い将来の利下げ可能性に言及した。実に直近1カ月だけでもブラード総裁に加え、アトランタ連銀のボスティック総裁やFRBのクラリダ副議長が利下げを示唆している。
これまでFRBの利下げ路線への転換は債券市場を中心に織り込まれ、為替市場は「われ関せず」という様相だった。だが、アメリカ10年金利の2%割れが視野に入り始めた中、為替市場の参加者も現実的なシナリオとして利下げを意識し始めているように見受けられる。金融市場のゲームの焦点は完全に「利上げ」から「利下げ」へ移った感がある。
ここへきてアメリカ10年金利は2.10%を断続的に割り込んでいる。これはFF金利誘導目標が今の半分の1.25%だった頃につけていた水準であり、一気に遠い過去までさかのぼった印象がある。ちなみに2017年9月につけていたドル円相場の最安値は107.33円であり、これは年初来安値だった。この時の日米10年金利差を月平均で見てみると2.2%ポイント弱であった。現時点の10年金利差はこれに肉薄しており、金利・為替の水準だけ見れば当時と並んでいる。
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