FRBの「利下げ」前提にドル、円、ユーロを展望 ゲームの焦点は「利上げ」から「利下げ」に転換

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現在の先進国において政治・経済情勢が最も脆弱なのはユーロ圏である。ゆえに、ECB(欧州中央銀行)の政策運営環境も急変している。現状、政策金利に関するフォワードガイダンスは「少なくとも2019年末まで(at least through the end of 2019)現状の水準を維持する」となっており、裏を返せば最速で2020年1月の利上げを示唆する表現になっている。

もともと「2019年夏まで(金利据え置き)」とされ、実質的には最速で9月利上げを示唆していたフォワードガイダンスをわずか3カ月間の延長にとどめたのは、11月1日に就任する新総裁の手足を縛りたくないとの思惑があったからだろう。しかし、9月や10月の段階で状況が悪化していた場合、フォワードガイダンスはやはり修正するしかあるまい。

問題は市場がその1歩、2歩先を行っていることである。ユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)の先物はすでに利上げではなく利下げを織り込み始めており、年内の利下げ織り込みは50%程度、1年半後まで見通せばおおむね100%というイメージである。このような状態でフォワードガイダンスを延ばしても緩和効果は限定的だ。すでにECBはビハインド・ザ・カーブ、周回遅れに陥っていると言える。ECBも「次の一手が利上げ」の世界から「次の一手が利下げ」の世界に引き戻されてしまった中央銀行だ。

これから通貨の強さは円>ユーロ>ドルの順に

そうした欧米中銀の状況に対し、日銀は動意に欠ける状態が続きそうである。「何もできない」がコンセンサスだ。このような日米欧の金融政策環境を踏まえ、為替相場の展望を簡単に整理しておきたい。人により評価軸はさまざまだが、筆者は変動為替相場において潮流を形成するのはあくまでアメリカ金利そしてドルだと考えている。「利上げ」から「利下げ」へと焦点が移り、過去5年とは逆の動きが今後の潮流になると想定すべきである。

年内を見通すと、G3通貨の強弱関係は「円>ユーロ>ドル」を見込んでいる。基本的にはドル全面安が為替市場の潮流となる。円とユーロは「強いもの比べ」になりそうだが、正常化プロセスが修正される余地があることや政治的な不安定性をはらんだままであることを考慮すれば、ユーロは円に劣後しやすいと考える。

こうした相場観を具体的なレンジに落とし込むとすれば、7~12月という期間をにらんだ場合、ドル円相場は1ドル=100~105円、ユーロドル相場は1ユーロ=1.11~1.17ドル、ユーロ円相場は1ユーロ=118~125円といったイメージになるだろうか。いずれにせよ、年4回の利上げに向けてFRBの威勢がよかった昨年の今頃とは世界が一変した。「弱くなるドル」という久しく見ていない現象に備えておきたい。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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