太田 登壇者は、皆、お知り合いなのですか。
神原 ええ、取材で知り合ったり、紹介していただいた方、旧友だったりと、どこかで必ず接点をいただいた方ばかりです。たとえばコルク代表の佐渡島(庸平)さんや星海社新書の初代編集長を務めた柿内(芳文)さん(現在はコルク所属)は、10年来の友人なのです。というか、同志ですね。
そんな彼らといつか仕事がしたかった。でも放送局で仕事をするというと、イコール番組に出演していただくという選択肢しかないので、少しハードルが高い。そこで、まず1度、勉強会にお招きすることで、参加した別の番組を担当するディレクターや局内にあるさまざまな部署――事業、営業、人事の人間たちと化学反応を起こしたかったんですよ。実際、勉強会への登壇をきっかけに、彼らに番組にご出演いただいたり、別の勉強会に登壇していただいたり、企画を相談する相手になっていただいたり、NHKとの仕事上の交流が巻き起こっています。
ボランティアではなくビジネスを
太田 局内からはどんな方が参加されてるのですか。やはり20~30代の同世代が多いのでしょうか。
神原 実はざっくり言いますと、「40歳以下限定。管理職は来ないでください」と言っているのです(笑)。これまで40部局くらいから延べ450人ほどが参加してくれていて、毎回90分近くやっていますね。そのうち45分間は質疑応答に充てています。勉強会後の名刺交換も活発で、その後の懇親会で議論が再燃したりもします。
太田 「若いやつが何か画策してる」と、上の世代から言われませんか? 私の場合も、主宰する「営業部女子課」が男子禁制のため、外部からは「単なるワイワイ女子会なんじゃないか?」と勘違いされがちで。実際はまったく反対で、「切磋琢磨する営業女子の集まり」なのですが。
神原 それは言われませんね。もともと僕らディレクターは画策することが仕事ですから。番組を企画するという仕事そのものが、企てを画策することですから(笑)。そういったことに予算をつけてくれたのは、NHKという組織に度量があったからだと受け止めています。NHK自身が、もっと組織を面白くしたい、そして時代に合わせて新しい公共放送としての姿を示していきたいと思っているのかもしれません。
太田 神原さんは本のあとがきで、登壇者の皆さんの共通点として「問う力」があると指摘されていますね。
神原 たとえば佐渡島さんなら、『宇宙兄弟』というマンガを売るときに、大規模な販促費がなかった。普通だったらあきらめるけど、さあどうすると。それで機転を利かせて、美容室だけに置いてもらう戦略に出た。美容室にあるマンガというのは、どこかスタイリッシュな印象があるし、女性も手にします。口コミが広がるのでは、という考えです。刈内さんも、野村不動産の分譲マンション「PROUD」の住居者と里山の地域住民との交流を仕掛けました。「PROUD」に住まれている方は、きっと普段、土を触るような生活をしない都市型生活者でしょうから、彼らに“田舎”体験を提供したら面白いんじゃないかという点に目をつけたのです。問いの立て方が独特なんですよ、ふたりとも。
太田 刈内さんの手掛けられている地域活性って、従来はボランティアでやっていたことを、持続可能性のあるビジネスにした好例ですよね。地域活性といえば、私の知る徳島の若手農家さん集団「若士(わかいし)」を思い出しました。そこの二代目経営者さんたちが刈内さんたちと同じ世代で、彼らは一代目がやっていなかったSNSや動画配信を使って、農作物をブランディングしてるんです。大都市に吸い込まれるのではなく、自分たち主体で、なんなら国際的にも発信していく世代なんだなと。
神原 ボランティアやCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)の範囲でやってもいいことですが、ビジネスと結び付かないことには、持続可能性がないと考えたのでしょうね。人の良心やモラルに訴えかけるだけでは続かない。目先の利益に走ってしまうのが人間ですからね。その点において、刈内さんは一歩踏み込んでいるなと。
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