「異色のNHK番組」がハイエクに注目した理由

「歴史上の知の巨人」の視点から見る資本主義

そして、フラットに巨人たちに「現代との対話」を試みると、実に素朴な疑問が浮かび上がってくるわけです。「そもそも、アダム・スミスがイメージしていた『市場』とは、『自由』とは何だったのか?」など、根源的な問いです。

大きな時代の転換点だからこそ、その問いを置き去りにすることなく向き合っていこうとしていく中で、さまざまな表現が細胞分裂するように広がっていきました。

「歴史上の知の巨人」と「現代の知性」

――シリーズの発想の原点については、以前も寄稿されています(「『異色すぎるNHK経済番組』は、こう生まれた」)が、その後、「2018」「2019」と回を重ねています。どのような試みがあったのでしょうか。

丸山:2016年5月に初めて真摯な試み、問題提起としてお送りした総合テレビの特集番組「欲望の資本主義~ルールが変わる時~」は、予想以上の大きな反響をいただき、翌年から新春恒例のBS1スペシャルとして回を重ねることになりました。

2017年は、初回と一緒「ルールが変わる時」、2018年は「闇の力が目覚める時」とサブタイトルをつけ、さまざまな世界の知性たちの視角をアンソロジーとし、さらにそれぞれアダム・スミスに始まる多くの歴史上の経済学、経済思想、社会思想の巨人たちの知見を重ね合わせ、現代の矛盾をはらみ錯綜する状況を読み解くための可能性を見いだそうとしたわけです。

「ルールが変わる時」では、富を生む論理が変わり人々の際限のない欲望が止まらなくなった資本主義の現在を捉え、その根底に何があるのかを、アダム・スミス、ケインズらの言葉を中心にひも解きました。

「闇の力が目覚める時」では、テクノロジーの開発が全人類の幸せにつながっていたはずの資本主義が、どこから歯車が狂い始め、なぜ猛烈な貧富の差の拡大につながったのかを、ヨーゼフ・シュンペーター、そしてマルクスらの言葉から読み解こうとしました。

――「経済」「経済学」の枠組みを越えて、社会のあり方まで問うような展開もありますね。

丸山:確かにそこからスピンオフして、「欲望の経済史」「欲望の民主主義」「欲望の時代の哲学」「欲望の哲学史」など、歴史的な視点、あるいは政治学、哲学などさまざまな領域にまたがるシリーズとなっていったわけですが、これもある意味必然的なことだったのかもしれませんね。

実際、アダム・スミスも道徳学者であり、社会哲学者であり、倫理学者であるといってもいい存在なわけで、後世の人々が「経済学の父」とし、「見えざる手」を定式化したのも、歴史の中での「物語化」なわけです。

虚心坦懐に向き合うことで、その「物語化」の重力から解放しようという意図においては、スミスに限らず、ケインズも、マルクスも、あらゆる知の巨人たちがまったく同列な対象です。その姿勢が必然的にフィールドや時代を越えさせていく、ということかもしれませんね。

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