「異色のNHK番組」がハイエクに注目した理由 「歴史上の知の巨人」の視点から見る資本主義
そして最後に、文明論的なフレームからの考察を繰り広げる2人が登場します。まずは歴史家ハラリが、いずれにせよこのままでは監視資本主義化は避けられないことを指摘し、資本主義はある意味、1つの宗教だという言葉までも飛び出したかと思うと、さらに哲学者ガブリエルにいたっては民主主義にまで言及し、現在の資本主義の「暴走」が社会を破壊しかねない致命的な危険性にまで話は及ぶ……、というわけです。
もちろん、それぞれ単独でも読み応えのある言説が展開されているわけですが、同時に想像力で行間を補いながら、つなげて読み込んでいただくと、意義深い、さまざまな視点、発想が浮かび上がってくるでしょう。
こうして、5人の知性を編んだ結果生まれた言説のリレーは、まさに現在進行形で進む現代の資本主義の変化にいかに対応すべきか、ナビゲートしてくれるかのようです。
こうした流れを受けて、僕も「あとがき」で副題にある「偽りの個人主義」というハイエクの言葉をキーワードに考察を展開させてもらいました。
右でも左でもない思想から生まれる発想
――ハイエクに光をあてた理由をお聞かせください。
丸山:まさに仮想通貨の時代、ホスキンソンが言うように、ハイエクの理念が実現化しようとしていると考える人もいるわけです。また、「新自由主義」の理論的な支柱とされてきた思想家でもあるわけですが、今だからこそ、フラットにその思想の可能性を改めて探究し、その過程で浮かび上がるものを丁寧に見つめてみたかったのです。
現在の世界のさまざまな分野の知性だけではなく、歴史上の巨人たちの視点、言葉もきっかけに思考を展開しようとしているのが、このシリーズの大きな特徴だと思います。
「欲望の資本主義2018」では、マルクスを比較的多く取り上げたこともあり、そのイメージから「左翼的」という声をもいただきましたが、「欲望の資本主義2019」では、紋切り型の整理では言わば対極にあると思われているハイエクが登場し、戸惑われた方もいらっしゃったかもしれませんね。
しかし、まさにそれこそが大事なポイントで、歴史上の巨人の思想でも今、これからの時代を読み解くために、その「可能性の中心」に迫ろうとしているわけで、イデオロギー的な文脈からは自由な企画なんです。
右でも左でもなく、フラットに思想と向き合うことで、現代に響く視点、発想が生まれます。実際、そうした単純な二元論では解読できない時代になっているということの証明かもしれません。
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