事実、BMWとの協議は互いに建設的ではあったものの、スムーズに進んだことばかりではなかった。ピュアスポーツカーともなれば、「乗用車のそれを単に流用しただけでは目標値にたどり着かず、それこそプラットフォームの設計思想をゼロから作らなければならない」(多田氏)からだ。
多田氏はプラットフォーム開発の経緯について次のように語る。
「前/後輪のトレッド(車輪の左右間距離)、ホイールベース(車輪の前後間距離)、重心高はスポーツカーの運動性能を決める3大要素です。新型では、前後トレッドに対するホイールベースの比率を1.55と決めました」とし、続けて「この数値は走りの黄金比として例えられていて、俊敏な運動性能で知られるレーシングカートが1.14と、前後トレッドとホイールベースの長さがほぼ同じです。対して新型はその値を1.55とし、さらに低重心化を促進することで俊敏さと安定性を私が考えるピュアスポーツカーの領域として成立させました。そして、2013年末にはトヨタがスープラを作り、BMWがZ4を作ることで合意が得られました」
トヨタの流儀では、新規のプラットフォームを作成する際、必ず試作車を作りあらゆる角度から検証を行うために走り込みを行うという。新型では通称「フルランナー」と呼ばれる試作車を作り、ニュルブルクリンクなどでテストを重ねた。テストを行っていた2014年当時、世間では撮影されたスクープ画像を前に「新型BMWスポーツカー誕生間近!」と叫ばれていたが、じつはトヨタ/BMWの協業そのものであり、これこそ多田氏こだわりのピュアスポーツカー誕生への第一歩であったわけだ。
完全分離の開発過程
フルランナーのテストをもとにBMWとの議論が重ねられ、低重心かつ1.55の黄金比をもったプラットフォームのスペック、搭載エンジン型式などが決定。と、同時にここからトヨタ「スープラ」チームと、BMW「Z4」チームの二手に分かれ、車両完成まで完全分離の開発が進んだ。
つまり新型スープラはBMWの意をまったく介すことなく、デザインを含めたクルマ各部の設計から、サスペンション性能、エンジンの細かな仕様変更(搭載エンジンは同型式)、トランスミッションやディファレンシャルギアの仕様変更から得られる運動性能、さらにはテストドライバーであるヘルフィ・ダーネンス氏の起用から走行分析に至るまですべてスープラチームだけで行っている。
ちなみにヘルフィ・ダーネンス氏はこれまでも「86」を駆りニュルブルクリンクでのレースに参戦しつつ、この6月22日からのニュルブルクリンクでは「GRスープラ」で参戦する。
新型スープラとZ4はともに、世界第3位の自動車部品メーカーである「マグナ・インターナショナル」傘下の「マグナ・シュタイヤー」(オーストリア)で製造される。同工場では、メルセデス・ベンツGクラスやジャガーEペイス/Iペイス、BMW5シリーズなどが現在製造されている。
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