2020東京チームの師、プレゼン必勝法を語る 東京五輪プレゼン/マーティン・ニューマン氏インタビュー

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リハーサルでは何回も泣いた

佐藤真海はまったく、アメイジングな(すばらしい)プレゼンターだ。36時間前のリハーサルでは、何かが足りなかった。特別な感情がどうしても伝わらなかった。前日に3分のプレゼンテーションのために4時間の練習をした。がんで足を失い、絶望したと言う場面で、“I lost my leg to cancer. ”(がんで足を失った)というセリフの後に「4秒間の沈黙」を入れることにした。そして、“I was in despair”(絶望した)と続けた。この「4秒間の沈黙」の間に「足を失うことのつらさ」や「彼女の絶望」について、聴衆に感じてほしいと考えたのだ。リハーサルでは2人で何回も泣いた。ただ、本番では、エモーショナルなパフォーマンスを涙なしで、見事にやってのけた。この4秒間の沈黙なしでは、これほどパワフルなものにはならなかっただろう。

――あの「おもてなし」はどのようにして生まれたのか。

「おもてなし」という言葉は、実は、それまでのプレゼンでも何回も使ってきたが、誰もあまり注目してくれなかった。「おもてなし」は日本の魅力を伝えるキーワード。そこで、IOCにこの言葉を教えなければいけないと考えた。あなたなら、子供に知らない言葉をどう教えますか。文節で区切って教えるでしょう? たとえば、恐竜という言葉は「きょ・う・りゅ・う」と教えるでしょう? 最初、クリステルは指をさすように、「お・も・て・な・し」というジェスチャーをやってみた。学校の校長先生みたいだった。

そのとき考えたのが、指と指の間に何かを挟むような仕草。物をつまむというジェスチャーは人間にしかできない。正確性を表す。そこで、親指と人差し指で何かを挟む格好をアレンジして、あの仕草が生まれた。最後の花開くような仕草は、クリステルが何か「スパークル(華やかさ)」を加えたいと、自ら考えたしたものだった。

さて、「おもてなし」という言葉は教えることができた。次はIOCのメンバーにその意味を教えなければいけない。「おもてなしとは歓迎、ホスピタリティである」ということを、アジアで一般的なジェスチャーを入れることで教えようと思った。手を合わせる仕草は、もちろん日本人には一般的ではないことも知っていたが、あえて入れてみた。これで、日本だけではなく、「アジアのオリンピック・パラリンピック」であることも強調できた。

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