「車内販売」消える日本、維持するヨーロッパ 採算は度外視、「鉄道の付加価値」として存続

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そのような状況で、各社はなるべくコストをかけないような工夫をしている。乗客へ提供しやすいようなパッケージにして、従業員の負担を減らすことで人件費を抑制したり、電子レンジで簡単に調理ができるメニューにしたり、といったものである。

もっとも、イタリアではレンジで温めたスパゲッティへ切り替えたら苦情が殺到、調理法に手を加えるのではなく、パスタメーカーと短時間で最適なゆで上がりになる新開発の食堂車用スパゲッティを開発することで、再度お湯によるゆでたてパスタへ戻すことになった。コストにばかり注力するとサービスの低下につながるので、そのバランスは難しいところだ。

日本では車内販売も過去のものに?

日本の情勢を考えると、もう一般の鉄道における供食サービスは使命を終え、将来的な復活は限りなく困難と言えよう。

ただ、車内販売の廃止は、駅で買い物をする時間的余裕がある人を前提とした考えだ。本当にそんな人ばかりが乗車しているのだろうか。緊急に移動しなければならない人も一定数いるはずだし、その中に着の身着のまま、飲まず食わずで列車に飛び乗った人がいたとすれば、その人は終点まで、喉の渇きと空腹に耐えながら移動することになる。

売店のある途中駅で弁当や飲み物を買うといっても、各駅の停車時間は後続列車の待避でもしない限りせいぜい1~2分、停車中に売店まで走って買い物をするにはリスクがある。そのようなことをして事故になったケースが過去にあったから、鉄道会社としては止めてほしい行為のはずだ。

前述の北陸新幹線は、速達のはくたか号で金沢まで約2時間半、列車によっては途中駅に停車するので、3時間くらいかかる列車もある。新幹線が東京―金沢間を「わずか」2時間半で結んだことは数十年前を考えれば画期的ではあるが、その程度の所要時間なのだから到着するまで我慢しなさい、というのは、特別料金を徴収する乗客に対しての扱いとは言えないのではないか。

日本の場合、ヨーロッパと大きく事情が異なるのは、他交通機関との棲み分けがほぼできているという部分だ。ヨーロッパのように同価格帯で所要時間もほぼ同じという競合交通機関がある例は少ない。移動を価格で選ぶ人は最初から格安のバスを選ぶし、仕事で先を急ぐ人は、所要時間と駅・空港の立地を考慮して新幹線や飛行機を選ぶはずで、サービスを基準に選択しないのが普通だ。

料金や所要時間が同じような交通機関とのシェア争いがないのなら、サービス面の付加価値を付けることに意味はなく、ただ目的地に乗客を運ぶことだけを考えればそれでよい。乗客は、飲食物については自分で乗車前に用意するのがスタンダードとなるのだろう。

今の流れでいくと、近い将来には食堂車に続き、車内販売もまた、過去の遺物として紹介される日が来るかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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