「車内販売」消える日本、維持するヨーロッパ 採算は度外視、「鉄道の付加価値」として存続

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だが近年は、その傾向にも歯止めがかかり、中には復活させたり、新たな供食サービスを提供したりする会社も多い。ヨーロッパで車内販売を完全に廃止した国は、ベネルクス3国(オランダ・ベルギー・ルクセンブルク)のように国土が極端に狭い国ばかりで、ほかの国では規模の違いはあっても、きちんと継続させている。

欧州大陸とイギリスを結ぶユーロスターの売店。夕方の便は出張帰りのビジネスマンが次々と訪れ、アルコールや軽食などが飛ぶように売れていく(筆者撮影)

1980年代までは、売店どころか豪華なフランス料理のフルコースを車内で提供していたフランス国鉄は、TGVの誕生により食堂車が姿を消した。利用時間が2時間の列車では食事が終わる前に終点に到着してしまうというのが主な理由だが、そもそも食道楽が多いフランス人も、最近は昼間からフルコースを食べる人などほとんどおらず、若い女性はヘルシー志向でサラダだけ、という人も多い。このような食文化の変化もあるので、食堂車の廃止は至極当然の話である。

過去を知る人からは詰め込み主義の単なる移動手段に成り下がった、と批判されたTGVだったが、売店に関しては現在も全列車が営業を継続している。鉄道が航空機やバスと決定的に違うのは、車内を自由に歩きまわれる点で、ちょっとした息抜きに売店でコーヒー1杯を楽しむことができることなのだ。実際、TGVの売店はつねににぎわいを見せ、行列ができることも多くある。

生ビールやエスプレッソも

ドイツ鉄道ICE1の食堂車車内。時間帯にもよるが、中にはコーヒー1杯で粘っている人も見受けられる(筆者撮影)
チェコの食堂車テーブルに置かれた注意書き。コーヒー1杯で粘る乗客はどこの国にもいるため、食事が終わったら席を空けてほしいと記してある(筆者撮影)

ドイツの高速列車ICEや特急ICは、編成に売店兼食堂が設けられ、1等車の乗客は車掌や客室乗務員に注文すれば、自席まで食事を運んでもらえる。ドイツやチェコなど、ビールを多く消費する国の売店や食堂車には、ビールサーバーが標準装備されており、夕方になると売店には長蛇の列ができ、生ビールが飛ぶように売れていく。

食堂車といえば、満席で座れないから食堂車に座ってコーヒー1杯で終点まで粘ろう、という話を耳にするが、夕方に食堂車に座って観察していると、コーヒー1杯で粘る客と、次々ビールを注文する居酒屋気分の客が半々、といった感じだ。

コーヒーにこだわりがあるイタリアは、車内売店にコーヒーマシンが設置されており、街中と変わらないクオリティのエスプレッソやカプチーノが飲める。イタリアも一時期、食堂車や売店、車内販売を中止する方向だったが、現在も優等列車では車内販売を含む供食サービスを維持している。

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