「車内販売」消える日本、維持するヨーロッパ 採算は度外視、「鉄道の付加価値」として存続
では、ヨーロッパでは採算が取れているのかという点については、残念ながら売り上げに関する各ケータリング会社の詳細なデータがないため、正確な数字を紹介することはできない。ただし、現地のある新聞が独自に調査した結果によると、各社とも採算はほとんど取れておらず、よくてとんとんという状況とレポートしている。
だが、そのレポートが記している話は本当のことだろう。ドイツの食堂車は、通常調理するスタッフ1人、接客するスタッフ1人で、忙しい時間帯は車掌がこれを手伝う。だが、いくらビールがどんどん売れたとしても、スタッフ2人の給料を賄えるだけの売り上げがあるとは考えられない。
筆者の地元チェコも、同じように2人1組で乗務しており、1人は食堂車に残って業務に当たり、もう1人はカートを押して編成を巡回し、戻ってきたら食堂車を手伝う、という流れになっている。
チェコは食堂車や車内販売が非常に充実している国の1つだが、国内列車のコーヒーは10コルナ、換算すると約50円である。ビールは30コルナ(約150円)、大きなサンドイッチが50コルナ(約250円)と、物価の違いを考えても極端に安い値段設定で、かなりよく売れている印象を受ける。そのせいもあってか、大きな駅に停車するたびに食料や飲み物が補充されていくが、それでも人件費がカバーできるほど売れているとは考えにくい。
車内飲食サービスを維持する理由
赤字なのに維持する理由はさまざまだが、その1つとして挙げられるのが鉄道会社の危機意識にある。LCCや高速バスの台頭はもちろんのこと、近年は同じ鉄道業界においても民間企業の参入自由化によって競争が激化しており、鉄道を取り巻く環境は非常に厳しい。
そんな中では、他社との差別化やサービス意識の向上は必要不可欠のこと。車内販売はもちろん、売店や食堂車の営業には、確かにコストがかかるが、優等列車における最低限のサービスと位置付けられているのだ。
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