人生100年時代には「人間とは何か」が問われる 「リンダ・グラットン×小泉進次郎」特別対談
小泉:年金についても、70歳まで待って受給額を42%アップするという選択をとっている人はわずか1%しかいません。制度をしっかり周知すれば確実に結果は出ます。
政治家の仕事は、政策や法律を作って終わりではない。いくらよい政策を作っても、知られなければ存在しないも同じですから。
グラットン:重要なことですね。学びなおしについては、政府は2つの形で役割を果たせると思います。まずは資金提供です。シンガポールのように、政府が毎年国民になんらかの学びができるよう資金を提供している国もあります。
2つ目は、国民がちゃんとした選択を下せるような支援ですね。現代のように労働市場が大きく変わり、いろいろな仕事が自動化されたり、かつてなかった仕事が新たに生まれる時代においては、新しい仕事がどこからやってくるのか、どんなスキル、どんな準備が必要なのかを国民に知らせ一人ひとりが賢明な選択を下せるよう助けることが大切です。例えばドイツの政府は、地域コミュニティーの単位でそのような支援を提供していると聞いています。
「時間のリバランス」という考え方
――日本人の勤勉性は、人生100年時代において奏功する資質ともなるということですが、ほかに何が必要でしょう?
グラットン:日本の労働制度は、日本人の勤勉さを促す仕組みになっていると思いますが、ただ、勤勉さは人生のバランスの代償として実現されてきた面もあるでしょう。とくに、時間を再分配する必要が出てきます。
例えば、引退後に使うはずだった余生の時間を、ちょっと早めの40代に半年だけもってきて休みをとるとか、若者の勉強する時間を、大人になってから学び直しの時間に充てるとか。時間の再分配ができるようになると、選択肢も増え、バランスもとれると思います。でも、そこは日本企業がなかなか気づかずにいるところですね。
小泉:そうですね。人生100年時代、もちろんお金は大事です。しかし、時間という価値がものすごく高まる時代でもあると思います。「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がありますが、この言葉ももう一度問い直す必要があるかもしれない。僕はまず、自分自身と向き合う必要があるだろうと思っているんです。
僕は政治の世界にいて、ほとんど休みがありません。正直イメージも悪い世界で、SNSの時代、何をやってもどこかで何かを言われる。しかし、政治にしかできないことがあるから、打ち込むに値する。そう信じているからこの世界を選択しているわけです。
自分の中で「僕はこれが好きだ」「私はこの道を信じる」と言えること以上に強い理由はありません。それが見つかれば、会社や仕事が変わっても、ずっと自分が好きなことをやっていられる。そんな人生100年は楽しいですね。
グラットン:私は、日本がこの時期に安定した民主主義を守っていること自体が偉大だと思っていますよ。小泉さんのように、長期的な視点から政策を考えられる政治家が日本にはいらっしゃる、これはとても幸運なことです。
私は、ロンドンビジネススクールで、世界35カ国から集まったMBAの学生100人ほどを指導していますが、学生たちに「政治家になりたい人はいるか」と聞きましたら、残念ながら1人も挙手しませんでした。民主主義というシステムにとって非常に大きな課題を突きつけられている時代です。そして、この時代にあっては、政治家になりたいという人そのものが奇特なんですよ。優秀な人のほとんどは、企業の社長になりたいと思うのです。
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