人生100年時代には「人間とは何か」が問われる 「リンダ・グラットン×小泉進次郎」特別対談

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グラットン:小泉さんの「リバランス」という言葉はとくに興味深いですね。これまでの時代、リソースとして重要視されていたのは「お金」でした。しかし、長寿化社会で大切になるのは「時間」です。つまり、時間をどう使うのかという決断が非常に重要になるわけです。政府は、国民が時間をバランスよく使ってゆくための手助けをしなければなりません。

「長く働く」は、「悪いニュース」なのか

――『ライフシフト』は発売後4年が経ち、現在も世界各地でベストセラーになっていますが、各国の状況はいかがでしょうか?

グラットン:『ライフシフト』の共著者であるアンドリュー・スコット氏とともに、イギリスの財務省に呼ばれて、70歳、80歳まで働くとはどういうことなのかと聞かれました。

リンダ・グラットン/ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。2013年のランキングでは、『イノベーションのジレンマ』のクレイトン・クリステンセン、『ブルー・オーシャン戦略』のチャン・キム&レネ・モボルニュ、『リバース・イノベーション』のビジャイ・ゴビンダラジャン、競争戦略論の大家マイケル・ポーターらに次いで12位にランクインした。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超える企業と500人のエグゼクティブが参加する「働き方の未来コンソーシアム」を率いる(撮影:尾形文繁)

この手の話は、有権者にとって印象が悪く、政治家は話しづらいものですよね。でも、私たちが直面する現実なのだから、きちんと伝えなければならないとお答えしました。アメリカでもこの話をしましたら、報道関係者から「なぜそんな悪いニュースを話すのか」と言われました。ですが、これは伝えるべき現実なのです。

小泉さんが年金についてお話しされましたが、多くの国の年金は、日本と同じく退職後10年ほど生きるという想定で制度設計されています。定年後30年間生き続けるという時代になれば、あらゆる国の年金制度がたちゆかなくなるでしょう。

イギリスでは、55歳以上の人が職を失うと、再雇用されるのはかなり難しい状況にあります。個人レベルだけでなく、企業側の支援としても考え尽くさなければならないと思います。

生涯教育についても、もっと話題にする必要がありますね。アメリカのビジネススクールや世界経済フォーラムでも話しましたが、人々の長命化が進み、非連続の変化が起き続ける状況のなかでは、たびたび再教育を受けなければ、長い時間を生き抜くことは難しくなります。世界各国の政府は、年金だけでなく、長く働く時代になるという現実と生涯学習の必要性、この2つをもっと議題に上げなければなりません。

小泉:長く働くということを、国民の皆さんにいかに前向きに捉えてもらえるように話すかは非常に大切ですね。日本の世論調査で「あなたは何歳まで働きたいですか」と聞くと、「働ける限り働きたい」という回答が最大です。この話をアメリカでするとみんなが驚きました。

日本人の持っている、勤勉という強み。これは戦後の発展を支えた原動力でもありますが、人生100年時代においても、日本人の最大の強みになると思います。やはり人生100年時代は、日本のニューフロンティアになる。僕は改めて確信しました。

そして生涯教育。最近取り組んでいるのは、教育訓練給付金です。「ユーキャン」などがわかりやすいでしょうか。一定の条件を満たせば、学費の一部が雇用保険から支給される制度があります。

実はこういった支援制度には国から相当な助成が出ていますが、あまり知られていません。せっかくの制度をもっと活用してもらいたい。そのためには、国民に必要な情報を届けていくコミュニケーション戦略が必要です。

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