救急医療の崩壊は医療費抑制が原因、基本法制定で再生を--島崎修次・日本救急医療財団理事長(杏林大学医学部教授)
年々増加する救急車の出動件数、長期化する一方の病院到着までの時間、そして「たらい回し」と批判される救急医療機関での受け入れ不能問題--。わが国の救急医療が危機に瀕している。日本の救急医療のリーダーである島崎修次・日本救急医療財団理事長(杏林大学医学部教授)に、救急医療の実情と立て直しの道筋を聞いた。
--日本の救急医療は、「医療崩壊」の象徴と見られています。
東京消防庁のデータによれば、救急医療の現場で搬送決定までに30分以上要したか、または5カ所以上の病院に要請したものの受け入れ先医療機関が見つからなかったケースは、2007年4月から12月までの8カ月間で2万7678件あり、搬送総数の6%強を占めました。こうした事態は東京のみならず、全国的に大きな問題になっています。
薬物中毒の常習的患者や、妊婦健診を受けないまま出産を迎えた妊婦が、いくつもの病院から救急搬送の受け入れを断られることはこれまでもありました。しかし、最近起きている問題は極めて深刻です。一般市民についても受け入れ先の病院が見つからないため、現場で救急車が立ち往生するケースが増えています。
--深刻な事態ですね。
日本の救急医療は、1次救急、2次救急、3次救急の3階建ての構造です(下図参照)。救急患者を、重症度に応じてそれぞれの医療機関に送り込む仕組みです。その中で、地域の民間病院や自治体病院が担う2次救急は、差し当たり生命に危険はないものの入院が必要な患者を受け入れています。ところが、採算が合わない、医師を確保できないということで、2次救急をやめる病院が相次いでいる。全国の2次救急医療機関は1999年3月末の3344機関から、07年3月末には3153機関に減っています。そのシワ寄せが、最後の砦である救命救急センター(以下、救命センター=3次救急医療機関)に及んでいます。
救命センターには厳しい要件がある。(1)重篤な救急患者をつねに必ず受け入れることができる診療体制をとること、(2)ICU(集中治療室)やCCU(心疾患集中治療室)を備え、24時間体制で重篤な患者に対して高度な治療が可能であること、(3)災害時の広域搬送拠点病院として機能すること--などです。その救命センターが患者の受け入れを断るのは、物理的に受け入れ不能であるなど、よほどの場合だけです。しかし、救命センターもパンク寸前です。
2次以下の救急医療機関が受け入れに至らなかった理由として「処置困難39%」「手術中・患者対応中16・2%」「ベッド満床15・6%」「専門外10・3%」などが挙げられています(総務省消防庁調べ、07年)。つまり、「処置困難」「専門外」が約半数を占めています。昨今、医療訴訟が増加する中で、専門外の診療に対して躊躇する傾向があります。