実際問題として、2018年度の日本の貿易統計を見ると対米輸出は15.6兆円、輸入は9.1兆円で、あいもかわらず巨額の対米黒字がある。このうち肉類の輸入は4240億円にすぎず、逆に自動車輸出は4.6兆円(177万台)もある。牛肉とクルマでは、所詮は衆寡敵せず。ちなみに、日本の対米自動車輸入はわずか877億円(1.8万台)であり、台数から言えばほぼ100対1である。トランプ大統領がこの数字を見れば、確実に激怒するであろう。
とはいえ、アメリカは農産物交渉を急がねばならない。ここで問題になるのがWTO(世界貿易機関)のルールである。単に一国だけの関税を下げることはできない。どこかの国を特別扱いするためには、ちゃんとFTA(自由貿易協定)を締結しなければいけない。日本側としてはそれが狙い目で、関税引き下げは「TPP水準が超えられない一線」であることを強調しつつ、自動車なども一緒じゃないとダメですよ、と主張すればいい。
それにしても変われば変わるものだ。今では日本が自由貿易の旗手になっている。今月はインドのモディ政権が再選されたので、今後はRCEP(東アジア地域包括的経済協定)の交渉も進むかもしれない。それができると、今度はインド、中国、韓国、ASEAN、豪州、ニュージーランドを含む、より広いFTAができることになる。
日本は「農産物をカードに自動車の犠牲を最小化」へ?
さらに上述の通り、日米FTAも遠からずできるだろうから、日本の主な貿易相手国のほとんどとFTAが結べてしまうことになる。2012年頃までの日本は、自他ともに認めるFTA後進国であったはずなのだが。
しかしあらためて考えてみると、なぜ日本の貿易自由化が進んだかというと、それはトランプさんがTPPを抜けてくれたからである。アメリカが抜けちゃったから、仕方がなく日本が頑張ってTPPの残り11か国でまとめあげた。すると今度はEUが危機感を抱き、日本との合意を急いでくれた。普通の状態であれば、日・EUの交渉はもっと時間がかかったはずだ。元はと言えば、すべてトランプさんのお陰なのである。
ところがトランプさんは、今も「TPP」と聞くだけで虫唾が走るらしい。「交渉は2国間で」というポリシーなので、当分は日米でやりあうことになるのだろう。
幸いなことに、日本側は交渉を急ぐ理由がない。茂木敏充経済再生担当相は、ロバート・ライトハイザー通商代表を相手に「農産物をカードにして、自動車の犠牲を最小化する」作戦を展開するだろう。トランプさんは癇癪を爆発させるかもしれないが、その場合は6月の大阪G20会議で、新たな接待攻勢をかけるしかあるまい。もし、農産物が自動車を救うとなれば、日本の通商交渉の歴史上、めずらしい局面が成立することになる(
本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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