デジタル社会で「管理職」が重宝される根本理由 映画会社は、なぜなくならないのか

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1.世界がひどく複雑になり、変化のペースが速くなったこと。このような世界で生き抜くには調整やすり合わせ、根回しが重要となるが、それを全部ソーシャルメディアで代替することはできない相談で、橋渡し役となるミドルマネジャー(トランスミッションベルト)がどうしても必要になる。
管理職は、小さな問題を解決し、大きな問題を上司にあげ、上の指示を噛み砕いて下へ伝え、下の言い分をうまく上に伝え、交渉し、討論し、その他諸々のソーシャルスキルをあちこちで発揮することで、組織の仕事をスムーズに回し、つっかえたり滞ったりしないように気を配る。
2.大方の人間は数字やアルゴリズムだけでは納得しない。大抵の人は、無味乾燥な数字よりも、説得力のあるストーリーやエピソードに心を動かされる。これは消費者だけでなく従業員も同じで、賢い企業は顧客に対してだけでなく社員に対しても高度な説得術を駆使する。
3.会社(組織)が存在するいちばんの理由は、人間というものは一緒に働き、助け合うのが好きだからだ。社会がどのように変わったとしても、大多数の人は、どこかに集まって「みんなで」働きたいと思うだろう。だとすれば、誰かが仕切り役を買って出て、うまく意見をまとめてみんなに分担を割り当てなくてはならない。

プロジェクト型に移行した映画産業

「未来世界」ではさまざまな仕事が分権化され、プロジェクトとして切り分けられるようになっていくことは間違いありません。その一方で、ギグエコノミーの世界では会社はフラット化し、管理職はいなくなるとするテクノロジー理想主義者の期待に反して、会社も管理職も(当分の間)存続しつづけるでしょう。このことは、もっとも早く(1950年代から)プロジェクト型に移行した映画産業でも、映画会社が大きな影響力を持っていることからも明らかです。

一般的な映画のつくり方だと、プロデューサーが企画を立てて出資者を集め、脚本家と相談しながら作品の骨格を決めて、監督と俳優にオファーを出します。低予算でも脚本が気に入ればビッグネームの俳優が出演することもあるし、大作でも自分のイメージに合わないと断られます。監督は、助監督、撮影、音声など現場を支えるスタッフを集めてクランクインし、作品ができあがるとチームは解散し、次の映画(プロジェクト)のための準備をはじめるのです。

ここで登場した人たち――プロデューサー、脚本家、監督、俳優、現場スタッフ――の中で「会社員」は1人もいません。俳優は芸能事務所に所属しているでしょうが、それはマネジメントを代行してもらっているだけで、人気が出れば収入は青天井で、仕事がなければお金はもらえません。こうした働き方ができるのは、大物監督や人気俳優だけではありません。いったん仕事のやり方がプロジェクト化されると、現場スタッフから端役にいたるまですべてのメンバーがフリーエージェントになるのです。

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