「iPhoneアプリ」なぜ4割が審査を通らないのか WWDC直前にアップルが訴えたかった「正当性」

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App Store批判はアメリカ国内からのみではない。欧州では、音楽ストリーミングサービス最大手のSpotifyが、アップルがApp Storeの独占的な立場を利用してビジネスを阻害していると批判し、EU委員会に訴えている。Spotifyはスウェーデンの企業であり、アメリカ企業がEU企業の競争を阻害していると見られれば、アップルに有利な展開とは言えない。

なおアップルはSpotifyの主張について、ウェブページですでに反論しており、無料ユーザーから手数料を取っていないこと、アップルの仕組みの外でのサブスクリプション直接契約を認めていることなどを挙げ、また音楽著作権料値上げに対してSpotifyが提訴した音楽振興と反する姿勢を批判した。

飽和するスマートフォン市場において、iPhoneは2019年に入り、売上高を15%以上減少させるひときわ大きな下落をみせている。依然として売上高の6割を占めるiPhoneへの依存脱却を急いでおり、iPadのテコ入れの成功やウェアラブル部門の急成長など、明るい材料はある。しかしやはり主役はサービス部門であり、その中核にあるのがApp Storeのビジネスだ。

App Storeのビジネスモデルの先行き不透明感は、アップルの「脱iPhone」策に暗雲が立ちこめる結果となるのだ。

App Storeの正当性はどう判断されるか

アップルは今後、App Storeのビジネスをめぐる裁判を戦うことになるが、一方でアプリ市場の独占的な立場が確実ではない点も指摘できる。

まずApp Storeには無料でアプリを公開でき、また有料アプリについても、アップルは価格決定権を持っていない点だ。

無料アプリは、例えばブランドのPRや会員証として使われたり、アプリ内広告によって収益化することもできる。とくにアジア圏では、アプリ内の動画広告は受け入れられやすい。アップルはアプリ内広告の収益に対しては手数料をかけていない点も挙げられる。

例えば、FacebookやInstagram、Twitterアプリは無料で配信され、広告が表示されるが、アップルはそこから収益を上げることはない。AirBnBやUberなどのシェア経済系のアプリでも同様だし、Amazon Kindleの本の売り上げや、先述のSpotifyのApp Store外でのサブスクリプション契約についても、アップルはそれらの売り上げから手数料を得ることはない。

ただし無料アプリを公開する開発者も、実はAppleに手数料を支払っている。開発者はアプリを公開するために、年間99ドル(日本では1万1800円)のデベロッパープログラム料金を支払っている。今回公開されたウェブページで、開発者コミュニティは2000万人を超えており、299ドルのエンタープライズプログラムを考えなくても、約20億ドルの年間売り上げがある。必ずしも、完全に無料でアプリを公開できるわけではない。

今回公開したウェブページで、App Storeが顧客に対して果たす役割を説明していることから、安全なモバイルアプリ活用にApp Storeは欠かせず、その対価を得ることに対して正当性を主張するのではないだろうか。このことに対する理解は、開発者側のほうが進んでいる印象を受けており、今回のページで消費者に対して理解を広めようとしている。

裁判はこれからとなるが、手数料率の引き下げという譲歩はアップルにとって厳しい判断となる。引き下げられた分、App Storeからの売り上げが減少することを意味するからだ。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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