沙耶を産んだときには、幸恵は心の中で離婚を決めていた。その後、親権や養育費の話し合いを重ねて、8カ月後には正式に離婚をし、親権は幸恵が取った。
離婚が決まったとき、“切迫早産になり死ぬか生きるか、命をかけて産んだ娘は、何があっても1人で立派に育てていこう”と、自分に誓ったという。
そこから2年間は無我夢中で働き、子育てをしてきた。だが、ふと気づいたときに、このまま1人でいるのは寂しいと再婚を決意した。
再婚相手は元夫とは正反対の性格
ところが、婚活の道のりはそう甘いものではなく、1年半お見合いを繰り返しても結婚できる男性には、なかなかめぐり会えなかった。
そんな中でやっと出会えたのが義則だ。しかし、義則について当初は私にこんなことを言っていた。
「娘にすごく優しくしてくれるし、娘もすごくなついている。それは、本当にありがたいんです。でも、デートで食事をしても、いつも割り勘。
娘がいるときはファミレスでもいいんですが、娘を実家に預けて2人でデートしても、おしゃれな店に連れて行ってもらったことがない。行くのはいつも安い居酒屋さん。しかも、デートに着てくる服が毎回同じなんですよ。もしかしたらすごいケチかもしれない」
そこで私は、こんなアドバイスをした。
「ケチな男性というのは、結婚したら奥さんにお財布を任せずに、自分で管理したがるのよ。無駄なお金を使われたくないから。義則さんとは、もう結婚を見据えたお付き合いをしているのだし、お金の話をするのは大事なこと。結婚後の家計のやりくりをどう考えているのか、聞いてみたらどう?」
それを聞くと義則は、こう答えたという。
「家計はすべて任せるよ。僕はお小遣い制でいいから」
義則は女性と付き合った経験もなく、純朴で朴訥な男だった。そして、プロポーズも義則らしかった。
そのときの様子を幸恵はおかしそうに話してくれた。
「『大事な話があるから、次は2人だけで会いたい。お店予約しておくから』と言われて連れて行かれたのが居酒屋さん。“また居酒屋さんかい”と思いながらも席に着くと、普段あまり飲まないお酒をガブガブ飲み出したんです」
店は、1時間ほどで出た。大都会の道には人がごった返していて、人混みの中ではぐれないように手をつなぎ、交差点の赤信号で立ち止まった。そのとき義則が切り出した。
「僕と結婚……●×▲#$%&」
喧騒の中、何を言っているのか声が小さくて聞こえなかった。と、そのとき、信号が赤から青に変わった。
「大群衆が私たちのほうに向かってブワ~ッと歩いてきて、その群衆とすれ違いながら私たちも横断歩道を渡ったんですね」
そして、渡りきったときに、今度は大きな声で言った。
「僕と結婚してくれませんか」
「もうロマンチックも何もあったもんじゃないですよ(笑)。でも、うれしかった」
そして、幸恵はしみじみと、とても幸せそうに言った。
「義則さんは、離婚した夫とは正反対のタイプなんですよ。あの離婚がなかったら、きっと選んでいなかったと思う。女性を喜ばせるようなことは言えないし、おしゃれな店も知らない。でも、この人は、不器用でまっすぐ。家族を裏切ったりしない。あと、私が主導を握る結婚生活が送れるなって思ったんですよ(笑)」
31歳シングルマザーがつかんだ新たな幸せ。末永く、お幸せにね!
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