幸恵はなぜ、シングルマザーになったのか。
最初に結婚をしたのは24歳のときだった。相手は、街コンで知り合った伊藤隆之(27歳、仮名)で、できちゃった結婚だった。
隆之は、大手メーカーの営業職についていたのだが、土日は地元で街コンや婚活パーティーなどのイベントを友人らと企画し開催していた。営業職だから話術も長けていて会話もスマート、女性のエスコートにも手馴れていた。
その場で、連絡先を交換。その日を境に、隆之からの猛アプローチがあり正式に付き合うようになった。
それから2年後、幸恵が26歳のときに妊娠3カ月がわかった。幸恵は隆之との結婚に迷いはなかった。隆之もそうであると信じていた。
ところが、隆之の実家にあいさつに行くと、彼の両親から思わぬことを言われた。
「子どもは堕ろしてくれませんか? 世間体が悪い。ウチにとってあなたはいらない嫁だし、いらない孫なので」
隆之の親からは、「それは世間が許さない」「そんなことが世間に通用すると思いますか?」などと、“世間”という言葉がたくさん出てきた。そんな親の横に座っている隆之は、何も言い返さずにずっと下を向いたままだった。
「もう頭の中が真っ白になりました。いったい何が起こっているんだろうって。もちろん私は、授かった命は何があっても産むつもりでいました」
入院中に夫が隠れて軽井沢旅行
そのまま隆之の親の反対を押し切り入籍をした。ところが、妊娠8カ月のときに切迫早産になり、病院に運ばれ入院を余儀なくされた。
「出産するまでの2カ月間は絶対安静。病院のベッドの上で過ごすことになりました。私がそんな状態なのに、彼は病院にたまにしか来なくて、母が身の回りの世話を焼いてくれました。そのときから、“この人と、このまま結婚しててもいいのかな”という疑問が芽生えてきました」
あるとき母親に着替えを取ってきてもらうために、家の鍵を渡した。着替えを取ってきた母親が言った。
「隆之さん、浮気してるんじゃないかね。家の棚に女の子と2人の似顔絵色紙があったのよ。◯年×月△日軽井沢って下に入っていて。旅行に行って描いてもらったんじゃないかしら」
その年月日は、つい最近のものだった。それから数日後、見舞いに来た隆之に、似顔絵色紙のことを問いただした。すると、一瞬ギクリとしながらも、平然を装うように言った。
「会社の同僚たちとみんなで2泊3日で軽井沢旅行に行ったんだよ。別になんでもないよ。あのさ、俺たちの家なんだから、たとえ幸恵の母親でも家に入るときは俺に一言断りを入れてほしいな。家の中散らかっていたし、恥ずかしいじゃないか」
みんなで旅行に行ったのに、なぜツーショットの似顔絵を描いてもらったのか。たとえ大人数だったとしても、自分が切迫早産で苦しんでいるときに会社の仲間とお気楽に旅行に行く隆之には、もう信頼のかけらも残っていなかった。
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