病院は治療費を取りっぱぐれずにすむし、結果的に患者も野宿生活から離脱することができる。今は生活保護を受け取るハードルはずいぶん下がったが、20年ほど前はなかなか申請が通らなかった。当時は、
「ホームレス生活から抜け出したかったら、救急車を呼んで入院するのが早い」
と言われていたぐらいだ。
いったん生活保護をもらい、そこから家賃を支払うようになってしまえば、基本的に継続してアパートで生活していくことができる。
だが、中には生活保護でアパート生活するのは嫌だという人もいる。大阪の淀川の河川敷に小屋を建てて生活をする70代の男性は語る。
生活保護をもらって暮らす福祉アパート
「こういう所に勝手に住んでても『出てけ』とはまず言われないね。基本的人権のおかげかな? その代わり……、
『大阪は福祉の街なので、福祉をもらってアパートで暮らしてください』
って役所の連中によく頼まれるよ。もちろん断るけどね」
「福祉で暮らす」とは、ほとんど「生活保護をもらって生活する」という意味である。生活保護を受給して、普通にマンションで暮らせ、という意味だ。
「福祉をもらう奴は、みんな早(はよ)う死んでしまうわ。なんもしなくてもお金が入ってくるから、酒飲んでギャンブルしているヤツばっか。ドヤ街に行ったら、ギャンブルで生活保護を溶かした人らが炊き出しに並んでるよ。もう何のための生活保護か、何のための炊き出しかわからない。
俺はホームレスでありながらも毎日働いているから、本当の意味で生きていられるんだよ」
と語った。
彼のように、人に施されるのは嫌だというホームレスは実は少なくない。健康であるうちは、自力で生活して、どうしてもダメになったら福祉アパートに入居しようと思っているという人もいる。言わば、独立心が強い人たちだ。
また、福祉アパートなどの独自ルールである「『禁酒』『禁煙』『門限23時』などを守るのが嫌だ」「面倒くさいから住みたくない」という人もいた。
ただ、多くのホームレスは、
「アパートに住めるなら、住もう」
と思う。実際、生活保護費が受給しやすくなり、福祉アパートへ住みやすくなって以降、ホームレスの数は減った。生活保護を受けていると病院の治療も受けられ、健康的な生活を送りやすくなる。
いろいろな考え方があるが、よい方向に進んだと思う。
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