しかし中には、ホームレスの健康を利用してお金を稼ごうとする人たちもいる。いわゆる貧困ビジネスだ。
以前、新宿中央公園でホームレスの人たちに話をうかがっているとき、とてもひどい目にあった男性に出会った。
その男性は片手にバッグを抱えてベンチに座っていた。
「寒い日が続きますけど、体調大丈夫ですか?」
と話しかけると、
「大丈夫じゃないよ」
とつっけんどんな言葉がかえってきた。
「俺は今、こんなことになってんだよ」
と言うと、バッグの中からビニールパックを出した。中には黄色い液体が入っている。
「これは尿パック。つまり俺の尿なの。尿パックは尿道につながってるの。こんな状態だから全然、体調なんてよくないよ!!」
と怒り口調で言った。
つまり袋の管は、導尿カテーテルを介し男性の男性器につながっているのだ。
導尿カテーテルをつけたままホームレス生活をしている人がいるなんて、ちょっと信じられなかった。なぜそんなことになってしまったのかを聞く。
熱海まで連れて行かれ、いきなり手術、そして放置
「ベンチに座ってたら、背広を着た連中に『体調大丈夫ですか?』って聞かれたんだよ。今みたいにさ。それで『いや、大丈夫じゃない』って答えたんだ。最近、オシッコの出が悪いって言った」
そう答えると、背広を着た連中は、
「では病院で治療を受けましょう」
と言って男性を自動車に乗せた。そしてどこへ行くとも言わず、走り始めた。
「近所の病院に行くと思うでしょ。そうしたら着いたのは熱海の病院。熱海までほぼノンストップで連れてこられちゃった」
新宿から熱海までは、高速道路で約2時間の距離だ。ホームレスを医者に診せるために移動する距離じゃない。
病院に着くと、検査を受けさせられた。
「『前立腺が肥大化しているので手術します。サインを書いてください』って言われて、なんだかよくわからないけどサインしたよ。お金ないけど大丈夫?って聞いたら、大丈夫って言うからさ」
そして翌日には手術台の上にいた。
手術が終わったのち数日は入院したが、そのまままた自動車に乗せられて新宿中央公園に連れて帰って来られたという。そして彼を公園に放置して彼らは帰っていた。
開腹手術が終わったばかりのホームレスを、数日後に野宿生活に戻していいはずがない。
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