東京五輪のレガシーは長野の21年の歩みに学べ エムウェーブ維持に苦労もスケート文化醸成

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左から日本電産サンキョーの今村俊明スケート部監督、小澤竜一氏、大久保義則スケート部部長(筆者撮影)

しかしながら、もともとの長野県内でもスケートどころだった南信地区では危機感が生まれている。

ピョンチャン五輪・チームパシュート金メダルメンバーの高木菜那も所属する、日本電産サンキョーの今村俊明スケート部監督も、ここ20~30年間の環境の激変を実感する1人だ。

「私は岡谷出身ですが、自分が小学生の頃は12月下旬から2月上旬にかけての毎日1時間、校庭リンクでスケートをするのが常でした。町の至るところにスケートクラブがあり、全校生徒がスピードスケートを履いて練習していた。諏訪や茅野、佐久地域も同様だったと思います。

ですが、約3年前に南信地区の学校の授業のお手伝いに数回行ったところ、90%以上がフィギュアスケートを履いていた。親御さんからも『スピードは危ないからフィギュアにしてほしい』という要望も多かったといい、スピードスケートに熱心な先生がいない学校はほぼフィギュアという状況。

『いつの間にこうなったのだろう』と驚きました。温暖化が進んで校庭リンクも作れなくなり、子どもがスピードスケートに触れる環境も減っている。そこも気がかりな点です」

スピードスケート人口減少は喫緊の課題

今村監督が言うように、同地域のスピードスケート人口減少は切実な問題だ。茅野市国際スケートセンター(*2018年11月から小平奈緒の名前を取って「ナオ・アイス・オーバル」という愛称に)の年間利用者数は、2008年度の5万4120人から2017年度には3万5815人に減少。10年間で3分の2になってしまっている。

「もう少し早く手を打つ必要があったかもしれない」と今村監督も険しい表情をのぞかせたが、南信地区のスピードスケートの未来が明るいとは言い切れないのが実情なのだ。

苦境打開策の一環として、日本電産サンキョーでは2015年から小学校高学年から高校生を集めたスクールを開校。積極的に底辺拡大を推進している。現在は小学生10人、中学生15人、高校生10人の合計35人が活動。同社スケート部のOBなどが指導に当たり、滑り方の基礎や正しいフォームなどを懇切丁寧に指導し、スケートの楽しさを伝えると同時にレベルアップを促している。

松本市出身の筆者も小学校時代は学校行事で12~2月は毎月、浅間国際スケートセンター(現在は閉鎖)に行ってスケートをしていたが、単にリンクを回るだけで正しい技術や走法を教えてもらうチャンスはなかった。そんな自身の経験を踏まえても、技術指導をしてくれる環境があるのは子どもたちにとってプラスだろう。

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