東京五輪のレガシーは長野の21年の歩みに学べ エムウェーブ維持に苦労もスケート文化醸成

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日本電産サンキョーの本社に飾られていたスケート部の歩み(筆者撮影)

日本電産サンキョーのスケートスクールの担当である小澤竜一氏も意味合いをこう語る。

「スケート活動に長い実績のある私たちには、スケートを基礎から教えられる人材がいます。

少子化が進み、競技人口が減っている今だからこそ、きちんとした環境でしっかりと選手を育てていくシステムが必要だと思います。南信地区には岡谷と茅野に屋外スケート場がありますし、子どもたちが練習できるミニリンクもいくつかある。欲をいえば、2027年の長野県開催の国体のレガシーになるように、岡谷か茅野にリンクに屋根をかけて、その内側にショートトラック用リンクを併設してくれれば理想的ですが、今ある環境を生かすことも重要でしょう。

現時点で1つ課題なのが、スクールに来る前の小学校低学年以下の子どもにどう興味を持ってもらうか。学校単位のスケートの授業も減っていますし、小さい子どもに興味を持ってもらう仕掛けを考えていかないといけないと思っています」

長野五輪が地元のスケート界にもたらしたこと

スピードスケートのナショナルチームの活動拠点が2018-19シーズンから北海道・帯広市に移り、高木ら日本電産サンキョーのトップ選手も長野県内でトレーニングをする機会が減った今、同社としてはスクール活動を通じて、底辺拡大や地域貢献を図っていくことを重要視している。

エムウェーブが誕生して20年以上が経過し、北信地域のスケート文化が根付きつつあるのは“長野五輪のレガシー”にほかならないが、もともとスケートが盛んだった南信地区の勢いが低下してしまうのは地元スケート界にとっていいことではない。

小平奈緒という世界トップ選手を輩出した南信地区にはまだまだやれることはあるはず。65年超の長い歴史と伝統を誇り、1998年長野五輪男子500m金メダリストの清水宏保、2010年バンクーバー五輪同種目銀メダリストの長島圭一郎ら数々のトップ選手を輩出してきた日本電産サンキョーが、スケート連盟関係者と手を携えながら模索していくことが肝心だろう。

いずれにしても、21年が経過した長野県のスケート環境はポジティブな面とマイナス面が同居している。その現実をきちんと理解し、分析することが、東京五輪後のレガシー創造の大きなヒントになるはず。

1年後に迫った大イベントを視野に入れ、多くの関係者が長野五輪のレガシーについて今一度、学んでいくべきだ。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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