一流の刑事が「あえて失敗から学ばない」理由 事件を解決すればするほど「勝ち癖」がつく

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私は、警部になってから、朝起きて歩く習慣がつきました。歩いていると脳が活性化されるので、さまざまなことを考えます。刑事の場合、どうやって犯人を捕まえるかということばかり考えていますから、自然とテーマは事件に関することに向かいます。

警部になり、本部で係長の役職がつくと、事件の全体像や捜査方針を「組み立てる」仕事をしなければなりません。事件現場の遺留品や、聞き込みで得た情報などは、一つひとつ、ばらばらなものです。それらを、地図をつくるようにして配置し、事実関係を整理しながら、次の一手を考える必要があります。

部下を「100%は信頼しない」理由

とくに事件の全体像については綿密に検討する必要があります。その意味では、部下を100パーセント信頼するわけにはいきません。部下が取ってきた情報が本当に事実なのか。ガセネタではないのか。あるいは事実だとしても、補強が必要ではないのか。それぞれ検討しなければなりません。部下にしてみれば「俺を信用してくれていないのか」と思うかもしれませんが、事件を指揮する者は小心者でなければいけないのです。

裁判のとき、どこか1カ所でも間違いがあり、そこを突かれたら、それまでの努力が無に帰してしまうかもしれない。そのため、捜査指揮官は、いつも「何か間違っているんじゃないか」と考えてしまい、落ち着かないものです。部下の前では大口をたたいていても、実際には誰よりも細かいところまで考えています。その意味では、繊細にものごとを考えることができないと、捜査指揮官は務まらないでしょう。

そういった状況で独り、朝の澄んだ空気の中を歩くと、頭の中で事件がクリアに見え、いいアイデアが浮かんできます。手持ちの証拠をどのように犯人の特定に結びつけるか。あるいは特定した犯人をどうやって逮捕するか。はたまた、黙秘を続ける犯人をどのように自供させるか。動いていると、次々にいい案が浮かびます。

歩くときにはつねにメモ帳を持っていました。複雑なことが一気に思い浮かぶので、その場で書き取っておかなければ忘れてしまうからです。そうして、朝の光の中で書かれた1枚のメモが、事件解決の切り札となっていくのです。

警視庁という組織の中にはさまざまな刑事がいます。刑事になるためには、刑事任用試験を受けて合格しなければなりませんから、刑事は誰しも、一定のハードルをクリアしてきたことになります。

刑事任用試験は、筆記試験と面接に分かれており、面接では、管理官や本部の課長を前に、「なぜ刑事になろうと思うのか」といったことについて述べなければなりません。刑事を目指す警察官は、そこで自分の熱い思いを面接官にぶつけます。そこで初めて「刑事魂」が生まれるといってもいいでしょう。

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