地銀の公的資金活用、政府と金融庁の思惑とは
「資金払い込みの時期は、平成21年3月末を希望していく」。1月19日、札幌北洋ホールディングス(傘下に北洋銀行、札幌銀行)が、公的資金申請の意向を発表した。昨年12月、貸し渋り対策の一環として、銀行に公的資金申請の道を開く改正金融機能強化法が成立。当初、銀行側の反応は鈍かったものの、札幌北洋に続き、鹿児島の南日本銀行も「申請を検討する」と表明した。
2008年3月に期限切れとなっていた金融機能強化法(04年成立)では、銀行が安易に税金に頼るモラルハザードを防ぐため、中小企業向け融資増加や収支改善など経営計画の達成ができない場合、経営トップの責任を問うハードルを設けていた。結果、地方銀行110行のうち利用したのは、紀陽ホールディングスと豊和銀行だけだった。
公的資金活用の障害
銀行には預金者保護のために、国際基準に準拠した自己資本比率規制がある。国際業務を行う国際統一基準行は自己資本比率8%以上、地銀の多くが該当する国内基準行は4%以上が必要だ。この比率を上げるには、分子となる自己資本を増やすか、分母のリスクアセット(総資産にリスクに応じた掛け目をつけたもの)を減らすしかない。
不況期には資本の調達コストが上昇するうえ、融資先の財務内容が悪化しリスクアセットは膨らむ。銀行は自己資本比率維持のために、融資を減らす方向に動き、さらに景気を悪化させる悪循環(プロシクリカリティ)が、かねてから指摘されていた。
今回の改正法は銀行の資本余力低下による中小企業への貸し渋りや貸し剥がしを防止するために、国が資本注入を行い、中小企業への円滑な融資を促進するというのが趣旨。そのため、銀行に対する“縛り”を緩和し、一律には経営責任を求めないとした。それでも、銀行側は申請に慎重だった。公的資金を申請すれば、「資本余力を欠く財務体質の悪い銀行」と市場から見られる懸念を抱いているからだ。
様子見する銀行が多い中、名乗りを上げたのが札幌北洋HDだった。北海道は中川昭一財務・金融担当大臣の地元であり、同行は第二地銀協会長行でもある。自己資本比率は08年9月末ではまだ9・2%と高いが、有価証券運用での損失と与信費用が膨らみ、08年度は275億円の最終赤字に転落する。つまり「以前から不良債権を引きずってきた銀行とは違い、『健全行への資本注入で中小企業融資を促進する』という改正法の触れ込みにはうってつけ。政治的に押し切られたのでは」というのが業界の共通認識だ。
だが、ようやく「自力の資本調達ができなければ、選択肢として考える」という声が、第二地銀の中では自己資本比率が低く、かつ今期収益も不振が見込まれる銀行の間で広がり始めた。実際のところ、有価証券の評価損や与信費用増加による財務悪化を食い止めることが先決なのだ。
地銀が申請したがらない、より本質的な理由は、経済構造についての認識が政府と異なっていることだ。全体で見れば企業部門も貯蓄超過だから、内需不足と効果的な産業育成政策を欠いた状態で、中小企業の多くは資金繰りだけでなく、収益力のない点に問題がある。「本来は利ザヤの取れる中小企業に貸したいが、よい貸し先がないので有価証券運用をしているのが実情。無理に融資を増やせば、恒常的な赤字企業の補填に回り、不良債権が増える可能性が高い。そうなれば金融庁が責任を不問に付すはずもなく、株主にも説明がつかない」というのが銀行側の本音。
選挙対策と相まって、昨年秋以降の金融庁や銀行業界への政治的圧力はすさまじい。抜本策として資本増強は必要だが、「健全性の番人」であるはずの金融庁が、実態を糊塗するような時価会計の適用や不良債権の引き当ての基準となる債務者区分の緩和を進めている。構造赤字の企業でも資金繰りをつけて倒産を阻止することが目的なら、それは財政政策で行うべきであり、銀行の健全性を損なう形で行われるのは筋違いだろう。
(大崎明子 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
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