政権交代と民主主義 政治空間の変容と政策革新4 高橋進/安井宏樹編 ~欧州主要国の交代の実情を丹念に追いかけた力作
安倍・福田と二代の首相が政権を放り出し、麻生政権の支持率が劇的に低下する中で、自民党政権から民主党政権への政権交代が取りざたされている。政権交代とは何なのか。どういう条件の下で、いかなるプロセスを経て起るのか。そしてその結果は実際の政策にどのような影響をもたらすのか。「55年体制」の中で封印されてきた問題が、今改めて問われている。
本書は、東大が組織した若手中心グループによる研究報告書である。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアというヨーロッパの主要国にオランダを加え、政策の転換という側面に特に注意を払いながら、また、二大政党制だけでなく、連立政権という状況の中での組み合わせの大きな変化にも注目しながら、さまざまな政権交代のあり方を実証的に分析した。
本書から浮かび上がるいくつかの興味深い事実を指摘してみよう。
第一に、政治リーダーの手腕、特に原理原則よりも柔軟な対応、プラグマティズムが時として大きな意味を持つことである。特に、フランスのミッテランやドイツのブラントなどは、ここぞという時に判断力と行動力を発揮してきた。しかも、政権交代が連立形成と絡む場合は一層重要である。
第二に、野党時代に党機構や意思決定のメカニズムをどのように改革し、立て直すのかという点が大きな意味を持っているという点である。イギリスで、長い野党生活を強いられた労働党が再び政権の座に返り咲くまでには、ブレアのリーダーシップを引き出すための党改革が不可欠だった。
第三に、イタリアでの「オリーブの木」と、オランダでの「紫の連合」という成功例が示すように、政権交代の大きな枠組みとして、左右二大グループへの収斂の傾向が見られることも指摘できる。
他方で、政権交代が必ずしもバラ色の結果をもたらすばかりではないことも、本書が示す重要なメッセージであろう。その点、ブレア政権が、政策転換を過度に煽り立てず、むしろ、いくつかの政策課題を温存する形で政権を奪取し、その後の政策展開に余裕を持って臨んだことは参考になるのかもしれない。
いずれにしても、本書は、政権交代のさまざまなありようを丹念に追いかけた力作である。唯一、選挙制度との関連性が十分に検討されていないという不満が残るが、グローバル化とヨーロッパ統合という制約条件の中、ヨーロッパの国々でどのようなことが起こってきたのか、多くのことを教えてくれる。わが国にも大いに参考になること請け合いである。
たかはし・すすむ
東京大学大学院法学政治学研究科教授。専攻はヨーロッパ外交史。1949年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学助手、助教授を経て現職。
やすい・ひろき
神戸大学大学院法学研究科准教授。専攻は西洋政治史。1971年生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。
東京大学出版会 4725円 206ページ
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