MMTが間違った政策提言を導き出しているワケ 「インフレは昂進しない」という前提の危うさ

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標準的な教科書は、貨幣には3つの機能があると説明している。

貨幣(お金)の3つの機能
(1) 価値の保存機能
(2) 交換機能(決済機能)
(3) 価値の尺度機能

貨幣数量説はマネーストックが増えれば名目GDPが増加すると考えるが、この場合のマネーは企業や家計が借り入れで調達したものでも構わない。つまり、(2)の交換機能を重視しているということだ。

一方、MMTでは民間部門の内部でお金の貸し借りをして貨幣が増えても、資産と負債を差し引きすると民間部門全体としては純資産が増加していないので効果がないとして、民間部門の純資産(特に金融資産)を増やすために政府が負債を増やすべきだと考えている。MMTではお金の機能のうちで(1)の価値の保存機能を強調しているということになるだろう。

MMTの特徴は、毎年の経済活動と同時に起こる純資産残高の変化の整合性を強調している点だ。

MMTは部門別の純金融資産の動きに注目

経済学では毎年の生産額であるGDP(国内総支出)が注目されることが多く、それと同時に起こる資産残高の変化はあまり問題にされない。議論されるとしても生産を支えるために適切な水準の生産設備があるかどうかという実物資産を見る場合が多く、経済活動に伴って家計や企業の金融資産と負債がどう変化するかということはほとんど議論されない。

一方MMTは政府・企業・家計・海外という部門別の金融資産と負債、特にそのバランス(差額)である純金融資産の動きを重視している。中でも重要なのは、会計的な関係から、フローでもストックでもすべての部門のバランスを合計すると以下のようにゼロとなるという関係が必ず成り立っているということだ。

(1)フロー
 (家計貯蓄-家計投資)+(企業貯蓄-企業投資)+(政府貯蓄-政府投資)-(輸出等-輸入等)=0
(2)ストック(残高)
 純金融資産(家計) + 純金融資産(企業) + 純金融資産(政府) + 純金融資産(海外) = 0

以前に東洋経済オンラインのコラム『企業による投資や賃上げが財政再建のカギだ~「経済成長」や「緊縮財政」だけではダメな理由』で取り上げたように、筆者は、この部門別のバランスを合計するとゼロになるという制約が財政再建の議論では無視されがちだと考えているので、MMTの主張には共感する部分がある。

次ページだがMMTの政策提言は間違っている
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