映画「長いお別れ」は家族を描ききった作品だ 多くの名優が出演を望む中野量太監督の力量
ちなみに中野量太監督のこの次に手掛ける作品は二宮和也と妻夫木聡の初共演作となる『浅田家(仮)』。写真家・浅田政志の写真集「浅田家」と「アルバムのチカラ」を原作に、コスプレをしながら家族写真を撮る家族の姿を、東日本大震災で被災した写真を洗浄し元の持ち主に返却する活動とからめて描く物語となる。注目の映像作家のひとりであることは間違いない。
厚生労働省のある推計では、2025年に65歳以上の5分の1が認知症を発症しているとの結果を導き出した。高齢化社会を迎えるにあたり、いつ家族が認知症にかかるとも限らない。そして将来は、いつ自分自身がかかるか分からない。それは決してひとごとではないという現実がある。そしてそれは本作の登場人物である父・東昇平もそうであった。元・中学校の校長で、厳格でまじめな性格だった父が認知症を患い、ゆっくりと記憶を失っていく。
日に日に変わっていく父の姿に家族は戸惑い、悲しみ、そして混乱の中に巻き込まれる。そんな厳しい現実を突きつけられた母娘だが、すべてが変わってしまったわけではなかった。過ぎていく日常の中のふとした拍子に、心の奥底にある父の愛情が垣間見えることがあった。
登場人物一人ひとりを丁寧に描く
この映画では、一見失われてしまったかのように見えていた家族の幸せな瞬間を、ひとつずつ拾い集めていくように一つひとつのエピソードを丁寧に積み重ねていく。本作に登場する孫の崇は、ガールフレンドに向けて「おじいちゃんはたくさんのことを忘れちゃったけど、本人はそんなに悲しんでいないのかもしれません。僕は今のおじいちゃんが嫌いじゃないです」というメールを送る。そうやって家族がそれぞれに日々父と向き合ううちに、あらためて自分自身を見つめ直すこととなる。
中野監督の前作『湯を沸かすほどの熱い愛』は、新人監督のオリジナル脚本というチャレンジングな企画であったが、中野監督が手がけた脚本を読んだ女優の宮沢りえが「心が沸かされた」として出演を即決している。一人ひとりの登場人物たちの気持ちに寄り添ったエモーショナルな物語は、多くの人の涙を誘った。それだけに次回作となる本作の注目は高かったが、今回は『シムソンズ』『トラさん~僕が猫になったワケ~』などの脚本家・大野敏哉と共同執筆で、脚本を練りあげた。
原作における三姉妹という設定を姉妹にし、さらに10年間の物語を7年間に変更した。よりシンプルに原作の設定を交通整理することで、登場人物の心情に寄り添っている。この変更について原作者の中島京子は「こんな感じになるのね、すごく面白い!」と喜んでいたという。
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