池上彰×佐藤優「2020年教育改革で起きること」 アクティブ・ラーニングはエリート教育か?
池上:そうです。学び方についてもう少しかみ砕いて説明すると、アクティブ・ラーニング本家のアメリカで行われているのは「反転授業」といって、最初に先生が授業のVTRを作り、学生たちはあらかじめ家でそれを見てから学校の授業に臨みます。従来の、授業を受けてから復習をみっちりやるという勉強方法を、文字どおり「反転」させているわけですね。
ベースになる知識は予習で頭に入っているから、本番の授業ではそれを踏まえて議論をすることでさらに理解が深まるし、自発的にその先の学びを追求することもできるメリットがある、とされます。
まあ、日本ですぐにそれを実行するのは難しいでしょうけれど、あらかじめ課題図書を読ませるなどして、授業では予習してどう思ったかといったことを議論させたうえで、先生がアドバイスするなり、最後にまとめる。想定されているのは、例えばそんなイメージではないでしょうか。
佐藤:いずれにせよ、アクティブ・ラーニングは絶対に必要だというのが、私の考えです。従来型の「受ける授業」では、これからの時代に必要な運用能力が身に付かないと思うからにほかなりません。
池上:私も、アクティブ・ラーニング導入の背景にある問題意識は間違っていないと思います。先生の話を受け身で聞くだけではなかなか身に付きません。自ら発言することで自分の中に定着するのです。これからは、授業にそういう要素を取り入れていかないと、新しい時代に対応する能力を育むことは難しいでしょう。ただし問題は、教える側がそういう授業を受けてきたわけではない、という現実があることなのです。
佐藤:先生がアクティブでなかったら、「対話的な学び」になりませんからね。
池上:以前、政治を学ばせるのにディベートを取り入れています、という学校があったので、話を聞いてみたら織田信長対豊臣秀吉でやるのだと(笑)。ディベートというのは、例えば憲法改正といった特定のテーマについて、賛成・反対のグループに分かれて、論拠を示しながら議論を戦わせることであって、「戦国ゲーム」ではないのです。
佐藤:なんの説得力も持たないことを、堂々と言ったり書いたりして「これが自分の考えです」というタイプの学生も、少なくないですね。対話はいいけれど、他人の意見にしっかり耳を傾け、それも踏まえて考えをまとめるという、まさに学ぶ姿勢がなかったら、形のうえで対話的な授業をやったとしても、得られるものは何もありません。そこをはっきりわからせるのも、教師の役目です。
「ハーバード白熱教室」をまねできるか
池上:高校レベルの話ではありませんが、究極のアクティブ・ラーニングに、10年前大ブームになった、マイケル・サンデルの「ハーバード白熱教室」があります。私は『週刊文春』の取材で、サンデル教授に自宅まで会いに行ったんですよ。
NHKで放映された「白熱教室」では、学生たちが次々に手を挙げていろいろと発言をしますよね。さすがハーバードの学生は優秀だとみんな感じたのだけれど、実はあれも十分な下準備があればこそなんですね。
準備の手伝いをするのが、サンデル教授の下にいる大学院生などの十数人のスタッフです。彼らが手分けして、講義に参加する学生たちにあらかじめ課題図書を与え、アリストテレスなり、ソクラテスなりを徹底的に読み込ませてから、あそこに集めるわけです。