池上彰×佐藤優「2020年教育改革で起きること」 アクティブ・ラーニングはエリート教育か?
佐藤:特別に選ばれた学生による反転授業ですね。
池上:そう。もう十分な準備ができているから、みんな質問に対して手を挙げることができる。あれを日本の大学でそのままやろうと思っても、とてもできません。
佐藤:そんな”インフラ”はありませんよね。
池上:アメリカの大学には、ハーバード以外にもアクティブ・ラーニング専用の教室を作っているようなところがあります。いわゆるエリートのビジネススクールくらいになると、多くても30~40人という環境で、みんなで討論・議論をさせている。
教育要員の数が多いアメリカの大学
佐藤:大学の話をすれば、アメリカには教育要員の数が多いという、アクティブ・ラーニングを実施するうえでの大きなアドバンテージがあるんですね。日本の大学の先生みたいに研究の傍らに教えるのではなく、教育に特化している先生たちがたくさんいるのです。
加えて任期制で、学生側の評価もあるから、教え方が下手だとすぐクビになってしまう。学生は学生で、授業料を年間何百万円も払っているから、必死なのです。その辺の緊張感は、日本の大学の比ではないですね。
池上:でも、佐藤さんの同志社大学での授業は、かなりアクティブ・ラーニングになっているのではないのですか?
佐藤:そうしています。例えば、聖書の基本的な文章を覚えさせる。その後、質疑応答で模範解答ができるようにトレーニングして、記憶に定着させた後、討論をしたりします。その討論の部分は、アクティブ・ラーニングだと思います。
ただ、私の場合は、絶対にスライドを使わない。それを課して、それから後、学生たちには質疑応答式で、練習問題を配っている。ヒントまでは書いてあります。それを全部まとめてきて、端から答えさせるようにしています。だいたい1回で60問から70問。それをウォーミングアップでやります。
その後、それとは別にテーマを与えて考えさせて、2400字にまとめさせる。プレゼンもその原稿を基に行わせています。2400字にしたのは、口頭発表ですとだいたい300字が1分だから、8分くらいでやらせて。それと別にブックレビュー(書評)をさせています。各人に神学書、哲学書、文学書などを指定して。それは1500字で書かせています。そういう形で発表させて、それをベースにして議論をするわけです。
池上さんが予習のビデオの話をされましたが、私はそれの代わりに、テーマに関連する映画を見せています。例えばキリスト教の土着化を取り上げようと思ったら、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙(サイレンス)』とか。
池上:面白いですね、それは。
佐藤:映画だったら、一応みんなその場で理解できますからね。まあ、私もいろいろと試行錯誤を重ねたのですが、学ばせ方としてようやく1つの形ができたかなと感じているんですよ。ちなみに、講義の後のやり取りも含めて私の5時間の授業を受けるためには、たぶん30時間から35時間の準備時間がないとついてこられないくらいのレベルになっていると思います。