不況だからこそ、競争力高めるIT投資の喚起を--野副州旦・富士通社長
昨年6月の社長就任後、海外事業の権限一本化や、富士通シーメンスを約500億円で完全子会社化するなど、経営課題であった海外事業の強化に取り組んでいる。また、ハードディスク駆動装置(HDD)事業は今期中に決着をつけ、2009年度の構造改革は半導体に絞ることを狙う。「事業の整理整頓」(野副社長)は終盤を迎え、次はその成果が求められる。
--昨年6月の社長就任時と今では経済環境は大きく変化しました。
就任前から、この程度の悪化は予想していたとはいえ、やはり影響は大きい。現時点で富士通の海外売上高比率は36%程度なので、為替の影響で悪化せざるをえない。そのため、海外市場に依存する製品は改革の時期に来ており、選択と集中をもう1回やり直す。一方、日本市場は、まだグローバルと同じペースでは悪化していないようだ。
現在の状況は人間でいえば病人。ある人は5日間寝込むが、別の人は1日で回復する。すると、なぜ5日間も寝ていたのか原因を考える。経営も同じことだ。不況でなくてはわからないことがたくさんある。不況下の現在は、事業の整理をしたり、集中的な投資をしたり、他社との提携やM&Aを考える好機だ。
--主力のシステム事業の受注ペースは鈍ってきていますか。
今期の受注は堅調で昨年より好調だ。このビジネスは足が長く、金融危機の影響については、2009年度の第1四半期に日本企業が景気の影響をどの程度受けるかだ。IT投資の先延ばしや、投資額の減少という話もあるが、内部統制や、セキュリティ、企業間の競争力強化をITで強化するという先行投資的な考え方がまったくなくなるわけではない。
--不況下でIT投資の削減が予想されますが、投資意欲は衰えていませんか。
むしろこの時期だからこそ競争力を高めるためのIT投資が堅調だと見ている。その需要をいかにビジネスに結び付けるかがポイントだ。
需要の喚起は二通り。一つは、業界再編だ。その際に個別のシステムを2社で走らせることはありえない。システム統合や新しい方向性が絶対生まれるので、マーケットの動きをよく見ておくことが大切だ。
もう一つは、コンサル型の提案による需要の喚起だ。その実現のため、新しい時代に向けた人づくりとして「フィールドイノベータ」の養成に、07年から力を入れている。このプログラムでは、顧客によってITの導入が必要か、アウトソーシングが必要かは異なるので、顧客の業務プロセスにまで踏み込み課題を抽出する専門要員を育成している。入社15年ほどの部課長職以上を全国から募集。昨年は151人を1年間職場から離し、コンサル的な視点でのシステム提案を教育した。すでに第2陣の教育も始まっている。
これは直接の顧客であるシステム部門でなく、顧客の顧客を見るという手法だ。たとえばある食品会社では、システムを導入したのに経営効率が上がらないという不満があった。そのため、食品会社の商品が販売されるコンビニや百貨店を観察するように指導した。物流のシステムをつくるにしても、何時にトラックが来て、どの商品がどの世代の人に、何時に売れるのかを把握することが重要だ。従来のように、食品会社にとって便利なシステムということだけが求められる時代ではなくなった。