不況だからこそ、競争力高めるIT投資の喚起を--野副州旦・富士通社長
--就任以来、システム事業はコア事業としていますが、携帯電話端末やパソコン事業の展望は。
携帯電話とパソコンは、収益力が弱くても継続していく。パソコンは価格下落と為替による影響で売上高は減少した。携帯電話も、前期は高齢者向けのらくらくホンなどのヒット商品に恵まれ大きく利益貢献したが、今期は買い控えと割賦制の導入など販売方式の変更がダブルパンチで効いている。ただ、両方とも赤字事業にはなっていないため、事業そのものを見直すつもりはない。
物流のIT化などのシステム事業は消費者から見えにくいので、企業イメージを維持するための商品として、携帯電話とパソコンは持ち続けるべきだ。そのため、営業利益率は5~6%という目標ではなく、たとえば2~3%でもいいのではないかと考えている。残りは、強みの国内のシステム事業で吸収すればよい。
--以前から提携や売却の検討をしている半導体とHDD事業は今期、大幅な赤字が見込まれます。
問題は半導体だ。今期は極めて大きな赤字になることが予想され、すごい勢いで悪化している。問題は技術ではなく、最終製品の販売の減速。自動車や一般的な家電製品が売れないのだから、部品である半導体が売れるわけがない。しかも、半導体はどの会社も悪いから提携は難しいうえに、1万人以上の従業員がいるので、すぐに撤退することもできない。今はコストを下げること、キャッシュをため込むことが最優先の課題だ。また、半導体のように弱いところを強くする戦略にはさらなる大規模投資が必要になるのでやらない。
HDDも同様に大口顧客であるパナソニックの販売減速などの影響を受けている。事業の進退に関しては、昨年に売却交渉をした、米ウェスタンデジタルとは為替の問題が障害となり断念した。
--現在は東芝へHDD事業の売却を検討されているそうですね。
東芝の西田厚聰社長と会談したのは事実。当社のHDD事業には優秀な技術者が多い。逆に東芝のパソコン事業やソリューション事業は富士通にとって魅力的な事業。HDDについては3月までに結論を出し、早く身軽になって来期は半導体事業の見直しに集中したい。
--電機業界では正社員の大規模なリストラも始まっています。
雇用の問題に関していえば、富士通は「社員が生きがいを持てる職場」と宣言している。企業の都合でリストラを片っ端からやれば、言っていることとやっていることが違うと言われるし、企業責任も果たせない。HDDに限らず選択と集中の決断には人員の問題が大きいが、雇用を最優先するのが大前提だ。
技術を捨ててもヒトを残すというのが私の考え方。いい技術もサービスもプロダクトも、すべてヒトが生む。人材さえ企業が担保していれば、いつでもすばらしい技術はできる。今は技術があればヒトはいらないというが、そんな考えでは変化の激しい競争環境についていけない。
--そうなると人材の活用が重要になりますね。
こういうときこそ、再教育していく。景気は循環するので、景気が回復したときにちゃんとスタートに立てることが大切だ。景気が回復してから準備しても手遅れになる。
新卒者の採用も、国内システム事業がしっかりと利益を出しているので、例年並みの採用数を確保するつもりだ。以前は業績の悪化で極端に採用を減らしたこともあったが、人材のバランスが悪くなると組織が壊れていく。サービスというのは、プロダクトと違って右から左に流せば顧客が満足するという性質のものではない。顧客との会話があって初めて成立する。だからこそ、海外メーカーが簡単には参入できず、日本メーカーの強みが発揮できる分野であり、人材の確保が大切になるのだ。