「孤独死」働き盛りも起こりうる現実への防波堤 「助け」さえあれば亡くならなかったケースも

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孤独死は決して高齢者だけの問題ではなく、30代、40代などの働き盛りにも十分に起こりうる。失業や過労、病気、失恋などによって、立ち上がれなくなり、誰からも手を差し伸べられることなく、社会から静かにフェードアウトして、孤独死してしまう。それは、30代の私も含めて、他人事ではないということを拙著の取材を通じていちばん感じたことだ。

孤独死対策

携帯電話を孤独死防止につなげられないか――。高齢者ではなく現役世代をメインターゲットに、孤独死を防ごうという動きも出てきている。

例えば、孤立死救済・回避支援アプリ「元気にしTEL?!」は、NPO法人「楽市楽画」によって、開発されたAndroidスマートフォン用アプリケーションだ。これは、画面をスワイプするか、充電器を抜き差しするだけで安否確認を行うことができるというというものだ。こちらは一定時間以上、スマホの充電器が充電しっぱなしになっていたら、SOSのメールが登録先に送られるという仕組みになっている。

このアプリは、自動でスマホにメッセージを表示するところから始まる。午前6時、正午、午後6時に、安否確認画面が表示されるので、画面をスワイプするか、充電器を抜き差しすることで、安否確認が終了。そして、スマホの充電器といった、絶対に毎日使用するものを使っているのがミソだ。

この「元気にしTEL?!」というサービスは、アプリをダウンロードして、最初に通報先のアドレスを入力、安否確認サイクルの日数を設定するだけで完了する。使用端末がスマホで、いちばん安い月額100円のコースには、「親元を離れた学生や、単身赴任など、1人で暮らす時間が長い方を主な対象としています」という解説文がついている。

このアプリを開発した打田純二氏は、かつて生命保険会社に勤めており、数多くの孤独死の事例に接してきた経験が開発の動機になったと話す。

「私が生命保険会社に勤務していたときも、年上の元部下が金曜日には会議に出ていたけど、月曜日に出社して来なくて、実は孤独死していたということがあったんです。

孤独死と一口に言っても、病状によってはすぐに亡くなるわけではなく、たまたま1人だったために助けを呼べずに、数日間生きていたケースも数多くあるんです。早く見つかれば死なずにすんだケースです。何とかして、孤独死を防ぎたいという思いから、このアプリを開発しました」

『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

特殊清掃業者だけでなく、事故物件を扱う不動産関係者に話を聞くと、現役世代の孤独死が決して珍しいわけではないことがわかる。長時間労働や不摂生などの複合的な要因が絡み合って急病になったり、突発的な事故で動けなくなったりした20代~30代の人が、救助できる人間が身近にいなかったために死亡後に発見されるケースがかなりあるのだ。

現に2011年には、当時19歳だった大学生が、119番に通報したものの、自力で病院に行けると判断され救急車の出動がなされず、9日後に遺体で発見されるという痛ましい事件が起こっている。

手軽に扱えるスマホのアプリを利用するなどして「もしも」のときの対策を考えておくことは、自分の命、そして仮に孤独死という事態に陥ったとしても、周囲への負担を軽減することに繋がるのかもしれない。

人とのつながりももちろん大切なことだが、利便性の高いIT技術も人助けの一役を担っている。多様な選択肢があることをもっと知ってほしい。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)など。

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