読売がDAZNと「包括提携」に至った両者の思惑 今季から巨人がDAZN放映されるだけではない

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こうした包括提携について、山口氏は「プロ野球のファン拡大というDAZNと読売に共通する目的のために、お互いに協力し合う枠組み」と説明した。放映チャネル=接点が増えることで巨人はファン拡大が期待でき、DAZNは強力なコンテンツの追加をテコに新たなユーザーを獲得できる。そこに“Win-Win”の関係が成立したということだ。

ただ、包括提携の中身をあらためて見返したときに浮かび上がるのは、巨人戦放映に対する、DAZNの極めて強い執着心だ。

巨人のオフィシャルスポンサーに就任したことや、原監督へのアンバサダー委託、そして読売新聞販売店を活用したプロモーションなどはいずれも、読売グループおよび巨人を広義の宣伝媒体と位置づけた提案だと言える。DAZNからは、日テレに支払う放映関連費用に加えて、かなりの“広告宣伝費(販促費)”が読売グループ全体に支払われるものとみられる。その総額は明らかになっていないが、放映権契約を結んでいる他球団とは別格の扱いであることは間違いない。

そこまでして読売側の重い腰を上げさせることに成功したDAZNだが、ここで1つの疑問が浮かぶ。今回の“投資”は果たしてペイするのか、という点だ。

今シーズンはプロ野球コンプリートできず

巨人戦はDAZNが独占的に放映するわけではなく、既存のチャネルで従前どおり放映される。また、昨年はDAZNと放映権契約を結んでいた広島とヤクルトが、今年は離脱。12球団コンプリートとなっていればインパクトは大きかったが、それも今シーズンの段階では実現しなかった。

そうした状況下で、巨人戦放映開始を契機とするサービスの“乗り換え”が大々的に起きるとは考えにくい。投じたであろうコストの大きさを思うと、それに見合ったリターンがあるのかは疑問だ。

なぜDAZNはそこまでして巨人を獲りにいったのか。

その答えを考えるうえで留意しておきたいのは、DAZNグループ(※)の親会社がアメリカの投資会社アクセス・インダストリーズであることだ。

アクセス・インダストリーズは、2011年に世界3大レーベルの1つとされるワーナー・ミュージック・グループを33億ドルで買収するなど、巨額の資金を投じて一大コングロマリットを築いている。

※DAZNは、イギリスのパフォームグループが手掛けるサービスの1つだったが、2019年に組織変更し独立した。
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