世界から愛される「イチロー流」コミュ力とは

「人の痛みを想像する力」が示す人間の器量

会見の中ではこうも話している。「外国人になったことで、人の心をおもんぱかったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることはできたとしても、体験しないと自分の中からは生まれない」。

「自分だけがよければ、人のことなどどうでもいい」「人のことなど構う余裕はない」「間違いを犯した人間は徹底的にたたくべき」――。そんな寛容性のない空気が重く漂う日本社会において、イチローのこうした「人の痛みを思いやる想像力」がことさら尊く感じられる。

会見には終始一貫、彼の野球に対する徹底した「愛」がにじみ出ていた。

「(イチロー選手が貫いたもの、貫けたものは、との問いに)野球のことを愛したことだと思います。これが変わることはなかった」「自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げる」と表現したように、まさに「我を忘れる」境地に達した人こそが無双の力を発揮できることを証明した。

「おにぎりを3000個握らせたかった」

「僕はゲームの前にホームのときはおにぎりを食べるんですね。妻が握ってくれたおにぎりを球場に持っていって食べるのですけど、その数がですねぇ、2800個くらいだったんですよ。だから3000いきたかったみたいですね。そこは3000個握らせてあげたかった」と、大切な仲間や妻、愛犬への感謝も、もちろん忘れてはいなかった。

「人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。あくまでも、はかりは自分の中にある。それで自分なりにはかりを使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと越えていくということを繰り返していく。そうすると、いつの日からかこんな自分になっているんだ、という状態になって。だから少しずつの積み重ねが、それでしか自分を越えていけないと思う」

85分の会見に、何気ないようで、実に奥深い言葉をこれだけ積み込める彼のコミュ力はやはり神がかっている。「言葉にして表現することというのは、目標に近づく1つの方法ではないかなと思っています」というように、言葉の力を知る彼だからこそ、一言一言を無駄にしない。

大切にする人やモノがあり、愛するそれらのために「自我」を超越し、「我を忘れる」という生き方。そんな彼の生きざまはまさに「幸せな人生」の見本であり、多くの人の憧憬の的となる理由なのだろう。

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